認知症の相続人がいると遺産分割は進まない…たった1つの解決策とは?
大切な人を亡くした後、残された家族には、膨大な量の手続が待っています。しかも「いつかやろう」と放置すると、過料(行政罰)が生じるケースもあり、要注意です。本連載の著者は、相続専門税理士の橘慶太氏。相続の相談実績は5000人を超え、現場を知り尽くしたプロフェッショナルです。このたび、最新の法改正に合わせた『ぶっちゃけ相続「手続大全」【増補改訂版】』が刊行されます。本書から一部を抜粋し、ご紹介します。

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認知症の相続人がいると遺産分割は進まない…どうすればいい?

 本日は「相続と認知症」についてお話しします。年末年始、相続について家族で話し合った方も多いかと思います。ぜひ参考にしてください。

 相続人の中に、認知症の方や障害をお持ちの方が存在する場合の手続については、通常の手続にプラスして、代理人の選任をしなければいけない場合があります。また、相続税申告においては、障害をお持ちの方の生活の保護を目的として、優遇措置も設けられています。

たった1つの解決策、それは成年後見制度

 認知症や知的障害、精神障害によって、判断能力が不十分なため、遺産分割協議に参加することが難しい相続人がいる場合には、成年後見制度を利用し、その相続人の代理人を選任したうえで遺産分割協議を行う必要があります。

成年後見制度とは?

 知的障害等がある方は、契約内容を十分に理解できないことで、不利益な契約をしてしまう可能性があります。このような方を保護し、支援する制度を成年後見制度といいます。成年後見制度は、「任意後見」と「法定後見」の2つに分類されます。

任意後見制度とは?

 今現在、判断能力が十分にある方が、自分自身の判断能力が低下したときに備えて、事前に自ら後見人を選んで、契約を結ぶ制度のことです。誰に何を支援してもらうか具体的に決定したうえで、後見契約を結び、実際に判断能力が低下・喪失したときに後見を開始する形になります。この契約は必ず公証役場で行う必要があります。

法定後見制度とは?

 既に判断能力が低下して、自身で財産管理等を十分に行うことができない方に、本人に代わって配偶者や子どもなどが申立てを行い、後見人を選任する制度です。

 さらに、法定後見制度では、選任の申立てを受けた家庭裁判所が判断能力に応じて、補助、保佐、後見の3つの類型から適切なものを選択し、状況に応じた支援を行います。

3つの類型とは?

「補助」は、判断能力がある程度低下してしまった人に適用されるもので、3つの類型の中では最も軽度なものです。補助の対象になる方は、日常生活には特段問題がない方が多いため、被補助人は1人で行うことが難しい事柄に限って、必要に応じて補助人にサポートをお願いします。そのため補助人には、包括的に権限が付与されるわけではなく、必要に応じて個別に代理権や同意権が付与されます。

「保佐」は、判断能力が相当程度低下してしまった人に適用されるもので、3つの類型の中間に位置します。保佐の対象になる方は、重要な法律行為(不動産の取引や遺産分割協議、金銭の貸し借りなど)についてサポートを必要とする状態にあるため、保佐人は、被保佐人が行った法律行為を完全に有効にする同意権と、それを取り消すための取消権を有します。

「後見」は、判断能力がほとんどなくなってしまった人に適用されるもので、3つの類型の中で最も重いものです。後見の対象になる方については、さまざまな不利益から法的に広く保護することが重視されています。そのため、後見人は、被後見人に代わって法律行為を行う代理権と被後見人が行った法律行為を取り消すための取消権を有します。

 ちなみに、成年後見制度のうち、最も利用者数の多い類型であり、利用者全体の約8割がこの「後見」を利用しています。

認知症は避けて通れない病気に

 2030年には、65歳以上の約30%が認知症、もしくは軽度知的障害になるという統計もあります(厚生労働省調べ)。つまり、これからの相続手続において、成年後見制度の利用が必要になるケースは決して珍しいことではなくなると予想されます。

成年後見制度が不必要なケース

 たとえ身体に障害をお持ちであっても、判断能力がしっかりしていて、相続財産の内容を理解したうえで、遺産分割協議に参加することが可能であれば、その方については成年後見人等の選任は不要です。

(本原稿は『ぶっちゃけ相続「手続大全」【増補改訂版】』の一部抜粋・加筆を行ったものです)