新日本酒紀行「結ゆい」火災前の結城酒造 Photo by Yohko Yamamoto

酒蔵焼失、茨城から北海道へ単身移住。土地と人を結び醸し続ける

 嫁ぎ先の酒蔵で杜氏を買って出て、さまざまな鑑評会で受賞を繰り返し「彗星現る」と称された、茨城県結城市結城酒造の浦里美智子さん。新銘柄「結ゆい」も好調だったが、2022年の5月に状況が一変する。築170年の酒蔵から出火し、隣接する自宅も全焼。れんがの煙突だけが残った。

 憔悴した美智子さんに声を掛けたのは、北海道の三千櫻酒造蔵元杜氏の山田耕司さんだ。火事の直前、三千櫻酒造で一緒に商品開発をした経緯もあり、夫と息子と離れ単身での移住を決めた。副杜氏を務め、自分の酒も醸す。蔵は大雪連峰旭岳の麓、東川町で、冬は外気温がマイナス20℃以下になり、外気に当たった洗い布は瞬時に凍るが、仕込み水は通年10℃と安定。「断熱性の高い醸造室は、隙間風のあった前の蔵より暖かく、清潔で効率の良い酒造りは快適です」と美智子さん。夫の昌明さんは茨城県の来福酒造で働き、一人息子の甲子郎くんは、今年の春に札幌市の全寮制高校に進学した。「すぐに会いに行けるので心置きなく酒造りに専念できます」と美智子さんは笑顔を見せる。