「一発ドカンと儲けるぞ!」ネット情報を漁って株を買ってもロクなことにならない理由『インベスターZ』(c)三田紀房/コルク

三田紀房の投資マンガ『インベスターZ』を題材に、経済コラムニストで元日経新聞編集委員の高井宏章が経済の仕組みをイチから解説する連載コラム「インベスターZで学ぶ経済教室」。第11回のテーマは、投資における「好き」の効用と「握力」の重要性についてだ。

暴論から極論へ

 投資部の先輩から「すぐに次の投資先を決めろ」と急かされた主人公・財前孝史は「今度は一発ドカンと儲けるぞ!」とネット情報を漁る。主将・神代圭介は財前の銘柄リストを見て「お前の眼はすでに……濁ってしまった」と喝破したうえで「ここからが本当の始まりだ」と告げる。

 入部直後に財前に「投資に勉強は必要ない」と暴論をぶつけた神代は、一転して「投資についてイチから謙虚に勉強しろ!」と正論を吐く。極論から極論への振り幅の大きさは、不自然なようで投資の本質を突いている。それは投資のプロに対する個人投資家のアドバンテージにつながる視点でもある。

 以前、私は当コラムで「投資は推し活」という持論を取りあげた。この考え方には「投資は収益を追求する行為であり、『推し活』なんて綺麗ごとではない」という強力な反論が成り立つ。あえて単純化して神代の話法にのせれば、値上がり益を狙う投資家は「濁った眼」の持ち主であり、損得抜きで「推し活」ととらえる投資家の眼は「濁っていない」と切り分けられる。

 そんな極端な物差しを当てれば、大半の投資家の眼は濁っていることになってしまうだろう。長期的な資産形成であろうと、最終的に値上がり益を享受したいことに変わりはない。無味乾燥なインデックス投資の場合、「推し活」的な側面は一段と弱まるからなおさらだ。

プロ投資家もかなわない個人の「強み」とは?

漫画インベスターZ_2巻P73『インベスターZ』(c)三田紀房/コルク

 それを承知で私があえて「投資は推し活」という視点を強調するのは、それこそが、個人が専業のプロよりも優れた投資家になり得る強み、いわゆる「エッジ」になり得るからだ。

 プロは「投資の勉強」に多大なリソースを割いている。株式投資なら有望企業を探すためのリサーチや割安な銘柄を発掘する多角的なスクリーニング、海外投資なら経済や政治の詳細な分析などに、個人では真似できない労力と時間をかける。

 一方、プロには、プロであるがゆえの不自由さがある。比較的短期で収益を上げなければいけない時間的制約や、なぜその投資先を選んだのか、資金を提供する顧客や上司を納得させる説明責任を負っている。リスク管理の要請や顧客の資金ニーズによって、不本意なタイミングで換金売りを迫られることもある。

 個人の強みは、そうした手かせ、足かせを気にせず、まさにオウンリスクで投資判断を下せることだ。投資先を選ぶ理由も、自分が納得できれば良い。そう、「好きだから」でもいいのだ。

 その「好き」には、他の人々がまだ気づいていない商品やサービスの魅力、企業の強みが関わっているケースもある。自分自身がプロである仕事の分野や、膨大な時間を費やしきた趣味の世界についての知識では、個人が投資のプロをしのぐことは十分ある。

 投資のプロがそこそこの利益で株を手放してしまうような場面でも、好きという「握力」がある個人なら保有を続け、超長期で大化けする僥倖に恵まれることもある。

 無論、「好き」が執着となって投資が裏目に出ることもあるだろう。それでも私は「好きこそ物の上手なれ」は投資の世界でも通じると思っている。だから、儲かりそうな銘柄を探すより、「推せる企業」を探す方が得策なのだ。できれば、澄んだ眼で。

 気の毒だが、学内ヘッジファンドの運用を任された財前にはそんな選択肢はない。次の投資先選びが何とか決まったところで、またもや初代主将の格言ノートで「お勉強」を促される。

「株ハ入口にアラズ 出口ニアリ」

 さてその真意は。

漫画インベスターZ_2巻P74『インベスターZ』(c)三田紀房/コルク
漫画インベスターZ_2巻P75『インベスターZ』(c)三田紀房/コルク