子どもたちが生きる数十年後は、いったいどんな未来になっているのでしょうか。それを予想するのは難しいですが「劇的な変化が次々と起きる社会」であることは間違いないでしょう。そんな未来を生き抜くには、どんな力が必要なのでしょうか? そこでお薦めなのが、『世界標準の子育て』です。本書は4000人を超えるグローバル人材を輩出してきた船津徹氏が、世界中の子育ての事例や理論をもとに「未来の子育てのスタンダード」を解説しています。本連載では、船津氏のこれまでの著書から抜粋して、これからの時代の子育てに必要な知識をお伝えしていきます。

世界標準の子育てPhoto: Adobe Stock

勉強と習い事、どちらを真剣にさせるべきか?

 習い事を真剣にさせていく上で、どの親も出合う問題が、好きなことだけをさせておけばいいのか、あるいは、勉強もやらせたほうがいいのかです。

 特に好きなことにおいて子どもの能力が高いほど、親の悩みは大きくなります。これについては、明確な答えがあります。

 それは、「Well Rounded/均整が取れている」状態であるということ。

 勉強だけでなく、スポーツや音楽などの習い事も高いレベルでできる、均整のとれた子どもに育てること。欲張りなようですが、この状態を理想とすることが、これからの子育てには必要なことなのです。

 というのも、スポーツだけ、勉強だけ、と一つのことに偏っている子どもは、学年が上がり、世界が広がり、競争のレベルが高くなっていくと、自分よりも優れた人に出会ったり、敗北を経験した時に挫折しやすく、燃え尽きやすくなります。

 たとえば、学年でサッカーが一番うまくても、市内ではどうか。市内で一番でも、県内ではどうか。県内で一番でも、全国ではどうか。どんな分野でも、上には上がいるのです。競争する範囲が広がれば、それまで以上に優れた人たちと競わなければならなくなります。

 勉強も同じです。どんなに勉強が得意でも必ず上には上がいます。

 習い事と大きく違う点は、勉強は誰もがやることなので競争のレベルが高くなるということ。さらに、生まれつき特殊な能力を持った「先天性の天才」も学問分野には一定数存在します。ですから、その中でトップを取ることは本当に難しいことなのです。

 学業やスポーツで「自分には無理だ!」という挫折を味わった時の保険として、また「こっちがダメならあっちで勝負!」と柔軟な思考を持つためにも、勉強系と習い事系、2つの強みを子どもに身につけさせることが重要です。

 たとえばアインシュタインもバイオリンを長年習っており、終生バイオリンを愛しました。

 仕事や研究で行き詰まった時に別の分野の特技があると、息抜きにもなりますし、新しいアイデアが生まれやすいのです。

 このことは学問的にも研究が進んでおり、Archives of Pediatrics & Adolescent Medicine Physical Activity and Performance at Schoolが1990年から2010年に実施されたスポーツと学業に関する14の調査の信ぴょう性を調査した結果、スポーツ活動に参加することは学業成績によい影響を与えることが確認されています。

 また、トロント大学のグレン・シュレンバーグ教授が2004年に行った「音楽がIQに与える影響」では、音楽を習った生徒は、習わない生徒よりもIQが高いことがわかりました。

 同じくトロント大学のシルベイン・モレノ準教授が2011年に行った調査では、音楽のレッスンを受けた生徒は、たった20日間でIQが高まることがわかりました。その他にも音楽がIQを高めるという研究報告は世界中で発表されています。

 スポーツや音楽だけではありません。アメリカの大学進学適性試験を行うカレッジボードが2001年から2005年にかけて実施した調査では、演劇経験がある生徒は、未経験者に比べて国語のテストスコアが平均で65ポイント高く、算数のテストスコアが平均で34ポイント高いことがわかりました。

 日本では「スポーツをしている人はスポーツが第一で、勉強は二の次」というイメージがありますが、文武両道を重視する欧米では、プロ選手の中にも頭脳明晰な人がたくさんいます。

 米国のMLB(メジャーリーグベースボール)で活躍したクレイグ・ブレスロウ氏は名門イェール大学で分子生物物理学と生化学を専攻し、ニューヨーク大学医学部への進学が決まっていた秀才です。

 ブレスロウ氏は勉強と野球を両立することによって、どのように物事を効率的に終わらせるか、ムダな時間を減らすためにどうするかを常に意識できる、能率のよい人間になることができたと言っています。

「勉強以外にスポーツをすることや趣味に打ち込むことは、現実の世界で成功することの準備になる。頭を本にくっつけているだけ、言葉を暗記するだけでは、他の人といっしょに働くこと、協力しあうこと、時間管理、他の人をマネジメントすることは学べない」

 このように語っています。

 真剣に習い事を続けてきた人は社会に出た時にいかにその経験が役立つのか、習い事の価値の尊さを知っているのです。