金(ゴールド)の国内小売価格(税込み)が1グラム1万円の最高値を更新した。円安・ドル高が進行し、円建ての国内金価格が上昇していることが背景にある。そもそも、この3年ほど、米NY市場で取引される金の先物価格は上昇してきた。半導体分野での米中対立や、主要国での財政出動、地政学リスクの高まりなど複合的な要素によって世界的にインフレが進み、その影響を受けた格好だ。しかし足元では徐々に変化の兆しが見られる。金の価格に下押し圧力がかかりやすくなるのはいつ、どんな場合だろう?(多摩大学特別招聘教授 真壁昭夫)
金の先物価格が上昇している理由
8月末、金(ゴールド)の国内小売価格(税込み)が1グラム1万円の最高値を更新した。円安・ドル高が進行し、円建ての国内金価格が上昇していることが背景にある。
そもそも、この3年ほど、ニューヨーク商品取引所のドル建ての金の先物価格が上昇している。ユーロや英ポンドなど主要通貨別で見ると、金の価格上昇率はドル建てよりも大きい。それは、2021年の半ば頃から世界的にインフレが進行していることと関係している。
インフレが進むということは、通貨の購買力=価値は下落する。それに対して、金の価値そのものはほぼ一定で安定している。ということは、金を取引するために用いられる通貨の下落率が大きいほど、その通貨を基準にして評価した金の価値は押し上げられる。イメージとしてはシーソーの関係だ。
主要通貨の中でも円の下落率は大きい。21年1月上旬から足元まで、日本円は主要通貨の中でも独歩安の状況。わが国経済の実力が低下し、円の購買力が弱まっているからだ。円の減価が大きかった分、わが国における金価格の上昇率は米国やユーロ圏などより大きくなる。
ただし、米国では少しずつインフレが頭打ちする兆しが出始めている。米国でインフレが落ち着くのであれば、世界的な金の上値は抑えられ気味になるはずだ。ただ、原油の価格が今後も上昇したり、ウクライナ情勢によって穀物の価格が上昇したり、インフレ懸念が再度高まるようだと、金価格が一段高となる可能性もある。当面、世界各国で金価格は振れ幅の大きな展開になりそうだ。