当面、インフレ、景気の方向感が定まらず、米国の金融政策の先行き不透明感は払拭されないだろう。そうした状況下、金相場も高値圏内で一進一退の動きを続けると予想される。(三菱UFJリサーチ&コンサルティング調査部主任研究員 芥田知至)
米金融不安を受けて
押し上げられた金相場
金相場(現物、出所:Refinitiv)は、2月上旬までの騰勢が一服して、2月28日には1トロイオンス当たり1804ドルと2022年12月以来の安値を付けた。
しかし、3月には急騰する場面があって、その後も高値追いが続いて、5月4日には2072.19ドルと20年8月7日の史上最高値(2072.49ドル)にほぼ並んだ。その後、やや下落したが、安値でも1900ドル台前半と、総じて高止まりが続いている。
振り返ると、3月10日は、IT企業を主要国客とするSVB(シリコンバレーバンク)の経営破綻が発表され、金融市場ではリスク回避ムードが強まり、安全資産である金は買われた。2月の米雇用統計で、失業率が上昇し、平均時給が市場予想を下回って、FRB(米連邦準備制度理事会)による積極的な利上げへの懸念がやや後退したことも、相場の押し上げ材料だった。
週明け13日は、12日に暗号資産企業への融資が多いシグネチャー・バンクが経営破綻し、金融システムへの不安が高まる中、金が買われる流れが続いた。15日は、スイス金融大手のクレディ・スイスに対して最大株主のサウジ・ナショナル・バンクが追加出資しない意向を表明したことをきっかけに経営不安が意識され、欧州金融システム全般への不安心理が強まった。
SVBファイナンシャル・グループが連邦破産法11条の適用を申請した17日は、金融システム不安が継続し、金の上昇幅が大きくなった。20日は、前日にスイス金融最大手のUBSがクレディ・スイスの買収に合意し、日米欧の主要6中央銀行が金融不安の鎮静化に向けてドル資金供給で協調することを決定したものの、投資家の不安心理を払拭できず、金は上昇し、一時2009ドルを付けた。
翌21日は、イエレン米財務長官が預金の取り付け騒ぎが発生した場合には預金保護の拡大を行う意向を示すなどこれまでの一連の危機対応を受けて、金融システム不安が後退した。22日は、FOMC(米連邦公開市場委員会)で0.25%の利上げが決定され、メンバーによる政策金利予想を表すドットチャートで利上げ終了が近いことが示唆されて、金は反発した。
23日は、前日のFOMCの結果がハト派的だと受け止められて米長期金利低下やドル安につながったことや、前日にイエレン氏が預金保険制度の保護対象を「全ての預金に拡大することは検討されていない」と大幅拡大に慎重姿勢を示したことが金相場には支援材料になった。
27日は、前日にFDIC(米預金保険公社)が破綻したSVBについて、米地銀のファースト・シチズンズ銀行が一括買収で合意したと発表し、金融システム不安がいったん後退した。