上司の承認を得たり、部下に仕事を進めてもらったり、お客様にお買い上げいただいたり……ビジネスにおいて「相手の理解を得て、相手に動いてもらう」ことは必須のスキルです。そこで、多くのビジネスパーソンは「理屈で説得しよう」と努力しますが、これが間違いのもと。
なぜなら、人は「理屈」では動かないからです。人を動かしているのは99.9999%「感情」。だから、相手の「理性」に訴えることよりも、相手の「潜在意識」に働きかけることによって、「この人は信頼できる」「この人を応援したい」「この人の力になりたい」という「感情」を持ってもらうことが大切。その「感情」さえもってもらえれば、自然と相手はこちらの意図を汲んで動いてくれます。この「潜在意識に働きかけて、相手を動かす力」を「影響力」というのです。
元プルデンシャル生命保険の営業マンだった金沢景敏さんは、膨大な対人コミュニケーションのなかで「影響力」の重要性に気づき、それを磨きあげることで「記録的な成績」を収めることに成功。本連載では、金沢さんの新刊『影響力の魔法』(ダイヤモンド社)から抜粋しながら、ゼロから「影響力」を生み出し、それを最大化する秘策をお伝えしてまいります。

超一流の営業マンが「ピンクの小物」を使う”深すぎる理由”とは?写真はイメージです。Photo: Adobe Stock

「自分という存在」を、
相手の心の中に入れてもらう

 相手との心理的な距離を近づける――。
 これは、「影響力」を身につける第一歩です。相手との距離が遠いのに、その潜在意識に働きかけることなど不可能。別の言い方をすれば、「自分という存在」を、相手の心の中に入れてもらわなければならないのです。

 そのために、僕はいろいろな工夫をしてきましたが、ここでは、「自分のキャラクターを打ち出す」という方法をご紹介します。僕の場合、「金沢景敏=ピンク色」というキャラを確立しているのですが、そのおかげでずいぶんと得をしてきたのです。

 僕は子どもの頃は「赤色」が好きでした。
「ゴレンジャー」などの特撮戦隊モノでは、必ず「赤」が主役。子どもの頃から自己顕示欲の塊で、目立ちたがり屋だった僕は、主役の象徴である「赤」に強い憧れを感じていたのだと思います。
ところが、高校生になって、甲子園球場に阪神タイガースの応援をしにいくようになって、赤よりもさらに目立つ色に出会います。それが「ピンク」でした。球場に詰めかけた若いファンは、ショッキングピンクのはっぴを着ていて、それがものすごく華やかに見えたのです。それ以来、身につけるもののどこか一部には、「ピンク色」を必ず入れるようにしてきました。

 ただ、プルデンシャルに転職して「営業マン」になった当初は、さすがにピンク色のものを身につけるのはやめました。ピンク色のものを身につけている営業マンでは、お客様に「信頼感」をもっていただけないと思ったからです。

超一流の営業マンが「ピンクの小物」を使う”深すぎる理由”とは?金沢景敏(かなざわ・あきとし)
AthReebo(アスリーボ)株式会社 代表取締役
1979年大阪府生まれ。早稲田大学理工学部に入学後、実家の倒産を機に京都大学を再受験して合格。京都大学ではアメリカンフットボール部で活躍、卒業後はTBSに入社。スポーツ番組などのディレクターを経験した後、編成としてスポーツを担当。2012年よりプルデンシャル生命保険に転職。当初はお客様の「信頼」を勝ち得ることができず、苦しい時期を過ごしたが、そのなかで「影響力」の重要性を認識。相手を「理屈」で説き伏せるのではなく、相手の「潜在意識」に働きかけることで「感情」を味方につける「影響力」に磨きをかけていった。その結果、富裕層も含む広大な人的ネットワークの構築に成功し、自然に受注が集まるような「影響力」を発揮するに至った。そして、1年目で個人保険部門において全国の営業社員約3200人中1位に。全世界の生命保険営業職のトップ0.01%が認定されるMDRTの「Top of the Table(TOT)」に、わずか3年目にして到達。最終的には、TOTの基準の4倍以上の成績をあげ、個人の営業マンとして伝説的な数字をつくった。2020年10月、プルデンシャル生命保険を退職。人生トータルでアスリートの生涯価値を最大化し、新たな価値と収益を創出するAthReeboを起業。著書に『超★営業思考』『影響力の魔法』(ダイヤモンド社)。営業マンとして磨いた「思考法」や「ノウハウ」をもとに「営業研修プログラム」も開発し、多くの営業パーソンの成果に貢献している。また、レジェンドアスリートの「影響力」をフル活用して企業の業績向上に貢献し、レジェンドアスリートとともに未来のアスリートを育て、互いにサポートし合う相互支援の社会貢献プロジェクト「AthTAG」も展開している。■AthReebo(アスリーボ)株式会社 https://athreebo.jp

 そこで、僕は「結果を出している営業マン」のマネをすることにしました。
 圧倒的な営業成績を叩き出している保険営業マンの本で推奨されている服装を、そのまま身につけたのです。紺のスーツに、白シャツ。黒革ベルトに黒革靴。時計は黒革ベルトに白のフェイス。髪型は、横は刈り上げ……。ピンクの「ピ」の字もないスタイルに切り替えたわけです。

 実際、このスタイルは清潔感と信頼感を相手に与える効果があるため、営業マンとして活動するうえでは最適であることを実感。これも、ひとつの「影響力」。必ずしも、自分の好みのスタイルではありませんでしたが、その服装をユニフォームのように身につけるのが習慣となっていました。

「キャラ」が立つと、
会話の「ネタ」にしてもらえる

 しかし、営業マンとして結果が出るようになると、少しずつ「自分の色」を出してみたいと思うようになりました。

 そして、ネクタイをピンク色に変更。しかも、普通のピンクではなく、阪神タイガースのはっぴと同じショッキングピンクのネクタイです。さらに、ペンケースやカフスなどの小物もピンク色のものにしました。自分の好きな色ということもありますが、そうすることでお客様との会話の「ネタ」にできるような気がしたからです。

 実際、効果はすぐに現れました。
 ショッキングピンクのネクタイは目立ちますから、「ピンクお好きなんですか?」と尋ねてくださるお客様がいらっしゃるのです。

 もちろん、ネクタイだけではツッコんでくださらない方もいますが、かばんからピンクのペンケースを取り出し、ボールペンもピンク色、手帳もピンクのものが出てくるのを見ると、さすがにクスッと笑ってくださいます。

 そして、「ピンクお好きなんですか?」という質問に対して、「そうなんですよ。僕は大阪生まれで阪神タイガースの大ファンなんです。タイガースファンのピンクのはっぴの影響で……」などと応えることで、自然な形で自己紹介をすることができますし、そのあと出身地やプロ野球、あるいは好きなスポーツの話に展開していくこともできます。

 あるいは、「子どもの頃、赤レンジャーに憧れてまして……」といった話をすれば、初対面なのに、いきなり幼少期の思い出話を交わすことができるかもしれません。そんな話で盛り上がることができたら、「お客様と営業マン」という関係性から、一気に距離を縮めることができるというわけです。