女性写真はイメージです Photo:PIXTA

コロナ禍以降に存在感を強めている、新宿・歌舞伎町の立ちんぼスポット・ハイジア前通り。かつては熟女や外国人売春婦が立ち並ぶ印象が強かったが、いまでは10~20代女性が立ち並び、注目度も増している。まだ若き彼女たちが体を売る理由とは――。本稿は高木瑞穂『ルポ 新宿歌舞伎町 路上売春』(鉄人社)の一部を抜粋・編集したものです。

ホストクラブの「売り掛け」という
半強制的な借金制度

 ホストクラブには、「売り掛け」と呼ばれる制度がある。シャンパンなど注文して高額になった飲食の代金を、返済期日を取り決めていったんは猶予してもらい、あとから支払う方法だ。銀座の高級クラブなどでは昔から同様の制度が優良客への“サービス”としてあり、それは企業が接待に使った毎月の支払いをまとめて後払いするためのものだったが、ホストクラブでは個人の女性客に背負わせる形に変化した。

 この売り掛けにホストで遊ぶ女性たちが期待したのは、いまは手持ちのカネがないが1カ月後には入金の見込みがあるといったように、返済能力があるからこそ、この制度を利用することだったはずだ。だが、現実に担当と客との間で横行しているのは「半強制的な借金」。これでは飲食店の“サービス”ではなく、現段階では返済能力がないにもかかわらず、それでも貸し付ける闇金のやり口だ。

 事実、ホストの口車にのせられ意図せず売り掛けしてしまい、やむを得ず学生やOLから風俗業界へと転じる女性も少なくない。

 確かに売り掛けは、返済期日までに女性がカネを用意できなかったり女性に飛ばれたりした場合、ホスト個人にそっくりそのまま店への借金としてふりかかってしまう諸刃なものではある。しかし闇金業者がそうであるように、ある程度の容姿スペックの女性であればカネを作ってくることなどわけないとホストは考えている。斡旋とまでは言えないかもしれないが、地方のデリヘルなどに少しの間「出稼ぎ」に行くように仕向け、そこでみっちり働き大金を持ってこさせたりするのが、売り掛け回収の常套手段だ。

 こうした知識があったため、僕はホストに対してあまり良いイメージがない。しかし現状は、ホストにハマって多額の借金を作り、身を粉にして働く女性たちを「ホス狂い」と括り、まつりあげている。

 ここで、改めて「ホス狂い」について説明したい。

「ホス狂い」とは、文字通りホストに狂ってしまった──ハマってしまった女性のことを指す。“狂う”=常軌を逸するまでに、となるわけで、かわいそうな存在を連想しがちだが──いや、実際の状況はどう見積もっても不幸であるとしても──いまや悲壮感などいっさい見せず「私はホス狂いである」と自称して、ホス狂いになった経緯や担当に使った金額の誇示やその矜持、愛情、憎しみ、不満、不安などの内情をSNSなどでひけらかし、共感を得たり優越感に浸るなどして承認欲求を満たすのがトレンドだ。

 その「ホス狂い」の世界を描いた漫画に、『明日、私は誰かのカノジョ』(をのひなお・小学館)がある。累計500万部超のベストセラーになりテレビドラマ化までされるなど、ホス狂いだけではなく一般女性も巻き込み大きなムーブメントになっている。

 つまりいま、幸か不幸かホストという職業がマスコミでもてはやされている。彼女たちは自ら望んでホストに大金を使っている。それで幸せ。そうホス狂いを評した意見があるにしても、売り掛けの問題をただすどころか目をつむるようなふるまいは、はなはだ疑問だ。

ホスト狂いになった
21歳の半生

 抱いていた悪印象の輪郭がはっきりとしたのは21歳の街娼・梨花(仮名)にインタビューしたなかでのことだった。幼い顔立ちで、体は肉感的。短めの金髪で、白いブラウスに黒の短パン姿には、美容系の専門学生にいそうな雰囲気がある。

“現在地”の状況を簡単に整理しておこう。これまで30代から60代の比較的、歴が長い古株の街娼たちが中心だったが、2022年夏ごろからは10代後半から20代前半の新顔たちが大挙して立つという問題がクローズアップされつつあった。どういう経緯かまでは窺い知れないが、職安通り側に立つ古株たちと区別されるように新顔たちは大久保病院側を好んだ。この棲み分けは不思議といまのいままで続いている(2023年6月現在)。

 2022年7月。平日の昼間──。気怠そうな顔をして大久保病院側に立っていた新顔の梨花は、約半年前にホストにハマり売り掛けをしてしまい、借金返済のためここに流れ着いた。そう話した直後、梨花は苦笑しながら言った。

「まあ、よくあるパターンだよね」

 これまでの取材経験からすれば、確かによくある話である。そして僕が「またか」と顔をしかめたのも事実である。だが、梨花には借金返済のなかでヤクザに拉致られほだされの経験があったのだ。

 梨花は昼過ぎから夜9時ごろまでほぼ毎日路上に立つ街娼で、ハイジアの地下1階にあるネットカフェ『アプレシオ』暮らしをしていた。実家は都下・町田の3Kアパートで、親はふたりとも健在なうえ、子沢山でもない。母26歳、父27歳のときに生まれた一人っ子だ。

 だが梨花の父親はコンビニ店員などのアルバイトを転々とする、ロクに定職にも就かず消費者金融で借金を重ねるパチンコ三昧の男で、その生活苦から梨花は幼稚園にも保育園にも通わせてもらえなかった。ついに梨花が小2のころには生活保護を受けるまでに。生まれてこのかた、ずっと貧乏暮らしを強いられてきた。

「もともと私は病気と障害を持っている」と梨花は話した。若干の斜視と、軽度の知的障害である。一見すると梨花は、斜視も言われるまで僕には気づけなかったし、質問に対する受け答えもハキハキしていたしで、貧乏暮らし以外はどこにでもいそうな21歳に見えた。

 だが、勉強がすごく遅れていて、小2より普通学級から離れて特別支援学級で学校生活を送るような子どもだったと話す。とりあえず高校までは行かせてもらったが、入学したのはやはり町田市内の特別支援学校で、それもほとんど出席しなかった。いわゆる不登校だった。

 梨花には同じ中学校に、中3の終わりごろから付き合う同い年の彼氏がいた。梨花はその彼氏のことが本当に好きで、ゆくゆくは結婚を考えていたという。しかし別々の高校に進学し、ふたりは離れ離れになると、梨花はあっさりフラれてしまう。そして失恋をきっかけに、精神を病みリストカットを繰り返すようになった。

「この人がいないなら私死ぬ、みたいな」と梨花が話したように、精神安定剤の大量摂取、いわゆるOD(オーバードーズ)もしたが、ついに死ねなかったという。それだけ本気の恋だったが、時がたてばなんとやらで、アルバイトで貯めたカネで金髪に染めたりピアスをあけたりしてそれなりに楽しい高校生活を過ごした。

「もう完全にオトコ依存症。恋愛してないともうだめ、っていう」

 相手がカラダ目当てであっても、一緒にいてくれさえすればそれでいい──。タガがはずれた梨花は、手当たり次第に男漁りをしたことで、若いカラダという武器を使えば男は優しくしてくれることを知ったのである。

 高校卒業から1年半ほどして歌舞伎町で遊ぶようになった19歳の梨花は出会いカフェの存在を知り、自然、周囲に流されるようにして売春を覚えた。コンドームは着用しないが膣外射精をしてもらう“生外”を条件に、1回1万5000円から2万円で若いカラダを売った。

マッチングアプリで出会った
男はホストだった

 同時にマッチングアプリでの男漁りにも目覚め、そこでひとりの男と知り合い交際する。ホストの集客方法は2013年に施行された『新宿区公共の場所における客引き行為等の防止に関する条例』により、ここ数年で路上でのキャッチからツイッターやインスタグラム、マッチングアプリなどのSNSに様変わりした。それを知ってか知らずか、その彼氏が「たまたま売れないホストだった」と梨花は話した。