ダイドーグループホールディングス 代表取締役社長 高松富也さんダイドーグループホールディングス 代表取締役社長 高松富也さん Photo by Mayumi Sakai

9月1日、飲料大手のダイドーグループホールディングスが、経済産業省が推進する「DX認定事業者」に認定された。同社が変革に舵を切ったきっかけは、2014年に3代目の高松富也さん※が代表取締役社長に就任したことだ。当時のダイドーは、主力の自販機ビジネス市場がじわじわ縮小し、売上が頭打ちの状態にもかかわらず、良かった頃の空気をまだ引きずっていた。危機感が伝わらないことに焦った高松さんは、1年でグループ約100拠点を行脚し、社内からDXリーダーを2人抜擢する。拠点行脚から始まった高松さんの地道な社内改革とは。(ノンフィクションライター 酒井真弓)

※正しくは、「高」の字ははしご高、以下すべて同じ

2000年代をピークに自動販売機の数は減少中
ダイドー自販機の約半分にIoT機能を搭載してスマート化

 日本の自販機普及台数は、人口・面積比で世界ナンバーワンを誇る。しかし、その台数は、2000年代をピークに減少している。人口減少が主な要因とされているが、コンビニで買える飲料の充実や、宅配サービスの普及など、競合の影響もあるだろう。一昔前は、町の小さな商店の軒先に、たばこの自販機とセットで置いてもらうのが最高の立地とされていたが、大手店舗の進出や後継者不足で閉店する商店が増えると、同時に自販機も減っていった。

 一方で、オフィスビルや工場、施設の休憩コーナーなどは安定した売上が見込める。自販機ビジネスの主戦場は、街中から屋内へとシフトしているのだ。

 問題は、労働力不足が業績に大きく影響することだ。ダイドーの自販機網を支える全国約3000人のルートセールスは、ここ数年特に人材確保が難しく、減った人員でオペレーションできる規模にまで縮小せざるを得ない状況が続いている。

 ルートセールスの仕事は経験がものを言う。これまでの販売実績から需要を予測し、一日のルート計画を立て、必要そうな数をトラックに積んで運び、現地に到着してから実際の在庫を確認して補充する。これまでも現場レベルでさまざまな改善がなされてきた。中には30秒で60本ものドリンクを自販機に詰め切るツワモノもいるが、これはもはや神の領域。誰にでも真似できるものではない。高松さんは、「仕事の仕組みを根本から変える必要があった」と語る。

「2020年から2022年にかけて、全国に設置したダイドーの自販機27万台のうち、自社で直接管理する全11万台にIoT機能を搭載し、販売実績や在庫状況をオンラインでリアルタイムに把握できるようにしました。スマートオペレーションといって、必要なタイミングで必要な商品だけ車両に積み、できるだけ多くの自販機を計画的に補充して回ります。これにより、20~30%の生産性向上を実現し、ルートセールス一人あたりの売上高を改善しています」

 AIによってルート計画や補充セット本数を自動で最適化する仕組みも、順次導入している。
「今はまだ、AIが導き出した結果を人手でかなり調整しています。AIの精度を高め、より少ない人員でも効率よく回れる仕組みを構築していきたいです」

 DXというと、デジタルによって企業のビジネスモデルあるいは社会そのものを変えていくことを思い浮かべるかもしれないが、高松さんは「身近な業務改善から始めたほうがDXは進む」と考えている。

「いきなり『ビジネスモデルを変革する』と言われても、話が大きすぎて自分事になりにくいですよね。みんなが日常的に使うツールや環境が変わる方が、より多くの気付きが生まれ、その中から新たな価値に転換できるものが現れてくるのではないかと。DXの前にデジタイゼーション、デジタライゼーションと段階を踏むことになったとしても、結局はそれが一番の近道だと思っています」