名峰・会津磐梯山を仰ぎ見る、福島県磐梯町役場名峰・会津磐梯山を仰ぎ見る、福島県磐梯町役場 Photo by Mayumi Sakai

2021年にDXを本格化し、今や国内有数の自治体DX成功モデルとして知られている福島県磐梯町。その磐梯町が、交流のある自治体を訪れ、テレワークを実施する「旅する公務員」実証事業を行っている。夏休み気分で磐梯町へと取材に向かった筆者を待ち受けていたのは、行政の掟と常識に縛られた「自治体DXの闇」だった。この闇に光は差すのか。(ノンフィクションライター 酒井真弓)

「DX担当者を出せ!」
役場に乗り込んだ町民の真意

 3年間の期限付きで始まった、磐梯町のデジタル変革戦略室。その船出は、いきなり荒れ模様を呈した。前編で紹介したとおり、新町長・佐藤淳一さんの一存で、反DXの急先鋒からデジタル変革戦略室長になった小野広暁さん。小野さんが地獄を見ていたその頃、町が掲げたDX戦略に、町民から物言いが入ったのだ。

「DX担当者は誰だ? 何だ、お前か。DXに町民を“巻き込む”とは何事だ」

 DXの本や成功事例の中ではよく、「経営層や現場をいかに巻き込むかが重要だ」と書かれている。小野さんらはそれにならい、“巻き込む”という表現を使ったのだ。

磐梯町 デジタル変革戦略室 室長 小野広暁さん磐梯町 デジタル変革戦略室 室長 小野広暁さん Photo by M.S.

「役場に乗り込んできたのは、私が昔からずっとお世話になっている人でした。怒られました。巻き込むって言葉は、巻き込まれ事故なんてその最たるものですが、相手のことを考えず、こっちの都合でいいようにしてしまうネガティブな言葉。まずは相手に納得してもらい、巻き込むんじゃなくて、一緒にやっていくんじゃないのか、って。はっとしました。それからというもの、私たちは巻き込むという言葉を使わない約束です」(小野さん)