これまでの企業のITシステム構築と異なり広範な取り組みが必要で、あつれきも避けて通れないのがDXだ。そうしたあつれきをものともせず、あまたの障害を乗り越えてシステム改革を行ってきたスゴ腕の“武闘派CIO(最高情報責任者)”が、ユーザー企業側には存在する。特集『企業・ITベンダー・コンサル…DX狂騒曲 天国と地獄』(全14回)の#6では、大手企業のCIO職を歴任してきた3人に「どうしたらDXが失敗しないのか」を率直に語ってもらった。(ダイヤモンド編集部 鈴木洋子)
「DXで何を達成したいかを明確に
目的地が決まっていないのに車を買うな」
「都内に行く車、名古屋まで長距離を走れる車、月に行ける車に必要とされる機能はそれぞれ全部異なる。「DX(デジタルトランスフォーメーション)」という車で自分が行きたいのはどこかを、まず考える必要がある。だがそれを決めずに取り急ぎ車を買おうとする人がとても多い」
P&G、フィリップ・モリスで長年IT部門に従事した後、日清食品で初となるCIO(最高情報責任者)となりIT改革を率いてきた喜多羅滋夫氏は、こう喝破する。
DXとはそもそも企業のトランスフォーメンション、つまり改革を、デジタルで行う手段だ。本来なら、その企業が何を実現したいのかに応じて、それぞれ手段は異なるはずだ。
ところが、「DXがバズワードとなりITベンダーのもうけの手段になってきた中で、『DXとは何らかのツールを入れたりシステムを変えたりすること』と誤解された。肝心の目的が明確になっていないまま、手段が先行している例が多い」のだという。
さらに「経営会議でITの話題が出たことすらない企業が、今になって手のひらを返したようにDX重視というのは、笑止千万だ」と喜多羅氏は重ねる。
これまで情報システム部やIT部は、社内で傍流とされてきた企業が多かった。そのため、「社長が『ITはよく分からないから部下に任せている』という例も多い。だがこれは『経営が分からないから部下に任せている』と同レベルの恥ずかしいことと自覚すべきだ。海外の経営者でITが分からないという人はいない。総力体制が必要なDXでこそ、社長自らが旗を振る必要がある」(喜多羅氏)。
何を達成するためのDXなのかをまず明確にし、それに適切な手段をその後に選ぶこと。そしてその推進体制に、トップ自らが熱量を持って携わっているかどうかがキーになる、ということだ。
喜多羅氏を含めてこれから登場する3人は、日清食品、東急ハンズ、メルカリ、パナソニック、ファーストリテイリングなどの大企業内で、あつれきをものともせずDXを推進してきた。いわば武闘派CIOたちだ。
なぜDX推進には摩擦が起こるのか。なぜ外部から来たDX人材に反感が生まれるのか。次ページでは、企業が具体的にどうすればDX後の自社の姿をイメージできるのか、さらに失敗しないDXのための人材雇用やプロジェクトの進め方について、武闘派CIOたちの知見をひもといていこう。