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近年「部下の育成にはキャリアに関する1on1が欠かせない」と言われるようになったが、やり方が分からないと嘆く管理職は少なくない。とくに相手が女性となると、より混乱してしまう人も多いようだ。一人ひとりに合った形で成長をサポートする、キャリア1on1の最適解とは?本稿は、池原真佐子『女性部下や後輩をもつ人のための1on1の教科書』(日本実業出版社)の一部を抜粋・編集したものです。
組織の中で後回しに
されがちなキャリアの話
これまで、プライベートも含めたキャリアの話は、組織のオフィシャルな場ではあまりなされず、後回しにされがちでした。
ひと昔前までは、みんな似たようなキャリアパターンを描いてきたので、キャリアの話をわざわざ公式の場でする必要はありませんでした。また、プライベートを職場で公式に持ち出すべきではないといった意識もあったかもしれません。
その代わりに、たとえば業務後の飲み会などで「どんなキャリアを描きたいの?」といった会話がなされてきました。つまり、キャリアの話はこれまで、主に非公式な隙間時間で何となくフォローされてきたのです。
とはいえ、そうした非公式な隙間時間をキャリアの話に使えるのは、一部の人たちだけでした。
組織の中では男性同士が、たとえば夜の飲食店や週末のゴルフなどで集まり、ビジネスやリーダーシップの話をしたり、次に目をかける人の話をしたりして、非公式の場で大事な仕事の話が進んでいくという実状があります。これを「オールド・ボーイズ・ネットワーク」と言います。
このネットワークに無理なく入れる人たちは、わざわざキャリアの1on1をしなくても、何となく自分のキャリアについて話したり、助言をもらったりする機会がありました。けれども、そうしたネットワークに入れない人たち、たとえば、介護や育児で業務後や週末の集まりに行けない人たちにとっては、キャリアの話は「蚊帳の外」であることが多かったのです。
ただ、新型コロナウイルスの世界的な流行によってリモートワークが加速したことで、オールド・ボーイズ・ネットワークが機能していた組織の多くで、これまで当たり前にあった「非公式な隙間時間でするキャリアの話」すらも、すっぽり抜け落ちてしまったという話を多く耳にします。
さらに、多様な価値観・属性・生き方の人が、自分の能力を発揮し、ワークライフバランスが取れていて、充実したキャリア形成が実現できる組織であることが、今以上に求められています。なぜかと言うと、労働人口が減っている中で、これまでのような似た価値観の日本人男性が中心で同質性の高い組織では、企業活動が維持できないだけでなく、多様化する市場に対応していくこともできないからです。女性や外国人、専門性や年代も異なる多様な人材が活躍できなければ、企業は今後、生き残っていくことはできません。
以上のような理由で、働く人、とくに組織の中では「キャリアの話を後回しにはできない」という空気が醸成されていき、近年、キャリア全般をテーマにした1on1が注目を集めるようになりました。
でも、考えてみれば、ある意味で当然かもしれません。
たとえば、女性活躍の文脈では、とくにキャリア1on1は重要です。最近、経営層におけるD&I(ダイバーシティ&インクルージョン/多様な人材を受け入れ、個々の特性を活かす)という流れも加速しており、組織ではよく、女性に対して「管理職になってほしい」と言います。ですが、一人ひとりの女性が背負っているものがどんなものなのか、どのようなキャリアを歩みたいのか、管理職へのハードルが何なのかを対話しないまま女性の起用に躍起になっても、女性活躍は進むはずがありません。
たとえば、私の会社では、女性リーダーのロールモデル的存在を「社外メンター」として育成しています。そして、「社外メンター」を企業で働く女性たちにマッチングし、キャリア1on1を行っています。女性の「身近に等身大のロールモデルがいない」という課題を解決することで、女性をはじめ多様な人材が活躍できる社会を創る事業を行っています。最近では、当社の社外メンターに男性が増えてきたり、企業の管理職(主に男性)にも、さまざまな研修に加えて社外メンターによるキャリア1on1を行うことが増えてきました。
さらに、社内メンターを育成し、社内の人同士でキャリア1on1ができる仕組みを構築する事業も行っています。そうした事業の中で、実際に当社が行った効果測定によると、「キャリアの話を安心してできる場所がある」「キャリアについて相談できる存在がいる」ことで、「リーダーになるモチベーションが高まった」「キャリアへの意識が高まった」「会社へのエンゲージメントが高まった」といった結果が出ています。
会社は仕事をする場ですが、仕事は個人の価値観や私生活、中長期のキャリアプランと密接につながっています。だからこそ、上司や先輩に「私はなぜ、この組織で働いているのか」「この仕事のやりがいは何か」といった本質的な話を聞いてもらえることが大事であり、キャリアの話を安心して聞いてもらい、必要に応じて助言をもらうことが重要です。そうした場を作ることが、今、組織で求められているのです。
これは、女性に限りません。ただ、組織の上長は男性が多く、働く女性特有のキャリアの課題への理解が追いついていなかったり、女性のほうがメンターやロールモデルが身近にいないというデータがあるのも事実です。
ですから、女性をはじめ、多様な人材に組織の中で大いに活躍してもらうためにも、キャリアについて話せる場を作るのが年長者の、そして組織の役割かもしれません。







