視野を広げるきっかけとなる書籍をビジネスパーソン向けに厳選し、ダイジェストにして配信する「SERENDIP(セレンディップ)」。この連載では、経営層・管理層の新たな発想のきっかけになる書籍を、SERENDIP編集部のチーフ・エディターである吉川清史が豊富な読書量と取材経験などからレビューします。今回取り上げるのは、性別・年代・国籍などの違いを乗り越え、組織を良い方向に持っていくための「対話」について深掘りした一冊です。
口先だけの取り組みでは
「ダイバーシティ経営」は進まない
社内コミュニケーションに苦手意識を持つ人は少なくないだろう。数人の仲間で立ち上げたベンチャーでもない限り、気が合う人ばかりが周囲にいるわけでもない。いや、「3人集まれば派閥ができる」とよく言われるように、数人のベンチャーでも考え方や価値観が違い、何かと意見が合わなくなるメンバーが出てきても不思議ではない。
その中で、近年では経営戦略の中にダイバーシティ&インクルージョン(D&I)の要素を取り入れる企業が増えている。それに伴って、社内コミュニケーションの重要性も高まっている。
ダイバーシティ(多様性)は、もはや日本語の普通名詞として定着し、日常会話でもしばしば用いられる言葉だ。ビジネスの文脈では、性別、国籍、障害の有無、キャリアなどに「違い」を有する多様な人材を組織に受け入れることを指す。
インクルージョン(包摂)は、そうした多様な人材が組織の中で安心できる居場所を確保し、それぞれが個性や適性を発揮しながら組織に貢献できる環境を作ることだ。
経営者が「そろそろうちもダイバーシティとやらをやらんといかんな」と言って、女性や外国人、障害者を雇用するのはいいが、それだけがD&Iではないことは、上記の定義からも明らかだろう。
つまり多様な人材を雇うだけでは「D」にとどまり、次の段階である「I」まで行かないと意味がない。それどころか、表面的な「人材の多様化」だけを進めて、雇用後に何の工夫もせず放っておくと、組織内に対立や分断が生まれてしまう可能性がある。
その中で、「I」のインクルージョンを効果的に行うために必要なのは、やはり適切な社内コミュニケーションだ。とりわけ「対話」が重要である。
今回取り上げる『異なる人と「対話」する 本気のダイバーシティ経営』では、D&Iの実現に向けた対話のあり方を多方面から探っている。さまざまな企業に取材し、具体的な言葉がけや、対話を促す仕組みづくりなどの事例を紹介しており、書名の通り本気でダイバーシティ経営に取り組みたい人にうってつけの書籍である。
経営者や管理職、人事担当者ではなくても、シンプルに「ダイバーシティについて考えてみたい」といった一般社員にもおすすめだ。
著者の野村浩子さんはジャーナリスト。「日経WOMAN」編集長、日本経済新聞社編集委員などを経て、政府・自治体の各種委員も務めている(肩書は本書の刊行時点。本記事で紹介する企業の事例や制度も、著者による取材当時のもの)。