「会社に対する不満が蔓延している」、「なぜか人が辞めていく」、「社員にモチベーションがない」など、具体的な問題があるわけではないけれどなぜだかモヤモヤする職場になっていないだろうか。そんな悩みにおすすめなのが、近年話題の「組織開発」というアプローチだ。組織開発では、「対話」を通してメンバー間の「関係の質」を向上させていく。そんな組織開発のはじめ方を成功事例とともに紹介したのが、『いちばんやさしい「組織開発」のはじめ方』(中村和彦監修・解説、早瀬信、高橋妙子、瀬山暁夫著)だ。本記事では、発売後即重版となった本書の出版を記念して、組織開発的な観点から職場にありがちな悩みの改善策を著者に聞いてみた。

若手社員がさっさと見捨てる職場と、大切にされる「価値のある職場」の違いとは?Photo: Adobe Stock

タイパと福利厚生を重視する若手や中堅の本音とは?

――転職が一般化するなか、より良い職場を目指して転職していく同僚も多い現代。一方の企業側では、社員の募集になかなか人が集まらず、選考途中で辞退されてしまうことに悩むことも増えているようです。人手の流出や人材の確保が課題となるなかで、社員が辞めない「価値のある職場」とはどのような職場なのでしょうか。

 今回は、転職が活発に行われる若手から中堅クラスの社員を想定して考えていきます。

 まず、この層の人たちのリアルな声から職場への期待を探り、その上で関連する理論をもとに職場の価値の高め方を考えてみましょう。

 20代の社会人や学生のキャリア志向に関心がある筆者は、会社や職場に対して、彼、彼女らがどのような期待を持っているか率直な意見を聞いています。するとこんな答えが返ってきます。

「タイパ(タイムパフォーマンス)は意識します。ダラダラ仕事しても意味ないですよね。あ、でも成長できる仕事なら全然やりたいです」

 

「就職活動では大手企業を狙っていました。理由ですか? 福利厚生が充実しているからと、転職する時有利だからですね」
 

有給休暇は大切です。実際に使えるのかどうかも含めて、です。取得率などは入社前に調べました」
 

「プライベートを充実させたいです。ワーク・ライフ・バランスは大事ですね」
 

「今の会社(新卒入社)にいつまでいるか、ですか? 30歳くらいでしょうか。定年までいることは基本考えていません

 いずれも若手らしい意見なのでしょうか。

 効率よく成長できる職場、短時間で仕事を終えられる職場、有給休暇も含めて時間の余裕があり自分の好きなことができる職場……。

 話を聞かせてもらった20代から30代までの会社員はいずれも難関大学出身者で、上昇志向の強い若手世代のリアルな期待だと筆者は受け止めます。

 とはいえ、現在の多くの職場は、これらの声をそのまま叶えられる職務設計や人間関係にはなっていないでしょう。

「価値のある職場」という理想と、現実とのギャップは大きく、これを埋めるための対話の機会も乏しいように思えます。

 悩ましい話ですが、ではなぜ若手社員は現在の会社を選んだのでしょうか。上記の意見とは角度の違う以下の声もありました

「今の会社を選んだのは、自分を受け入れてくれそうだったからです。居場所があるっていう感じです」
 

「会社の人たちと話していて、何かしっくりくるという感覚がありました。この感覚を大切にしています」

 ここに、彼、彼女らにとって「価値のある職場」のヒントが隠されているように思われます。

「価値のある職場」を測るための3つの着眼点

「価値のある職場」を整理するために、「組織コミットメント」という考えを用いてみましょう。

 これは、社員の組織に対する帰属意識や組織との関係性を示す次の3つの要素で成り立つ概念です。

「組織コミットメント」が高い人ほど組織の一員であり続けようとするので、職場に感じる価値になぞらえてとらえられると思います。

・存続的(功利的)コミットメント
「ここにいることが得だからいる」という組織との関わり方です。例えば「残業が少ない」、「有給休暇が取りやすい」、「辞めて転職するとかえって条件が悪くなる」といった考えにもとづきます。

・規範的コミットメント
「この組織にお世話になったのだから留まり続けるべきだ」、「一度入った会社では3年は辛抱するべきだ」といった規範や義務感にもとづく組織との関わり方です。

・情緒的コミットメント
「この会社、職場が好きだ」、「所属していることを誇りに思える」など組織と自分自身のやりがいや達成感を同一視する関わり方です。

 このうち職場単位で高めやすいのは、「情緒的コミットメント」でしょう。

 組織開発的な考え方にもとづくと、社員との対話で「情緒的コミットメント」を高めていくことで職場の価値を引き立てていくことが期待できます。

 対話のテーマは、メンバーそれぞれの仕事が職場内でどんな意味を持つのかであったり、職場の仕事が他の部署や他社に対してどのように役立っているのかであったり、会社の理念をメンバーの一人ひとりがどう解釈しているか、などが考えられます。

 若手・中堅メンバーは冷静な合理性と、職場の人間関係を大切にする情緒的な側面をあわせもつ、多様な仕事観、人生観をもつ世代とも言えそうです。

 その価値観に寄り添うことで「価値のある職場」を作っていくことができるのではないでしょうか。