ここ数年、「企業理念」を新たにつくろうとする動きが強まっています。というのも、単なる利益の最大化だけでなく、「社会的意義がある活動をしているか」という評価基準が、消費者・パートナー企業・投資家・従業員にとって重要になってきているからです。
これからの時代は、事業の社会的価値を示せない会社は存続することが難しく、会社全体で目指す方向性を言語化した「企業理念」を中心に据えた経営が不可避になっていきます。
そこで今回は、企業理念のつくり方・活かし方を網羅的に解き明かし、「新時代の経営本の決定版」「この本はすごすぎる」と称賛されている『理念経営2.0』の著者・佐宗邦威氏にご登壇いただいた、本書刊行記念セミナー(ダイヤモンド社「The Salon」主催)の模様を、全2回のダイジェストでお届けします。(構成/根本隼)
つくるべき企業理念の見つけ方
佐宗邦威 前回は、ビジョン・バリュー・ミッション・パーパスがどのように組織の動力源として機能するかということを、「渡り鳥の群れ」のメカニズムを参考にしながら解説しました。
しかし、誤解しないでほしいのは、すべての企業がこの4つの理念全部をいますぐ明文化する必要はないということです。むしろ、それぞれの企業が抱えている課題や、置かれている状況によって、つくるべき理念は異なります。
もっと言うと、ビジョン・バリュー・ミッション・パーパスの必要性と、企業の経営課題との関係は、以下のように表せます。
(1)組織の推進力がない⇒「ビジョン」をつくる
(2)組織の一体感がない⇒「バリュー」をつくる
(3)組織内でやるべきことの優先順位がわからない⇒「ミッション」や「パーパス」をつくる
僕が企業理念の策定の相談を受けるときは、「会社が抱えている最大の課題は何か」を必ず最初にヒアリングするようにしています。そうすると、上記3つのいずれかが挙がることが多いので、その実情に応じた理念づくりの戦略を採ることになります。
企業理念のつくり方・活かし方
企業理念を策定・実装していくには、次の4段階があると考えています。
(1) 理念の策定…ビジョン・バリュー・ミッションなどを策定する。多くの場合、社長や経営陣、経営企画が中心。
(2) インナーブランディング…策定した理念を広く知ってもらうため、ビジョンやミッションを社内に伝播したり、組織文化を言語化したりする。経営企画や人事、コーポレート広報が主導。
(3) イノベーションで体現…策定した理念を実装していく段階。「理念体現プロジェクト」と呼ばれるような新規事業において、仕事の目的や具体的な内容に理念を落とし込んでいく。デザイン部門、イノベーション部門が牽引。
(4) アウターブランディング…一般消費者や取引先、投資家などに、(1)~(3)までのステップでつくりあげた新製品やサービスを発信する。具体的な行動としては、展示会でのブランドコミュニケーションや、ブランドストーリーの公開、コーポレートメッセージの発出など。事業部門・R&D部門・広報が先導。
1~3年ほどかけて、この4段階を駆け上がっていくケースが多いです。大事なのは、自分の所属組織が、いまどの段階にあるのかを見極めて、とるべき行動を考えることです。