「アタマを使え!」という言葉を聞くことがある。だが、「どんな風にアタマを使えばいいのか?」と聞かれたら答えるのは簡単ではないだろう。そこでお薦めしたいのが『新版[図解]問題解決入門』という書籍。「考える」という行為がどんなものなのか、その全体像がわかると読者から強く支持されるロングセラーだ。本連載では、本書のエッセンスをお伝えしていく。(初出:2022年10月12日)
「問題意識」はどこからくるか
「問題意識を持て」とよく言われます。はたして、そう言われて自動的に問題意識が生まれてくるものでしょうか。
そもそも、問題意識とはいったい何でしょうか。すでに問題が目の前で起こっている場合は、「問題意識を持て」などと悠長なことは言いません。
問題意識の有無を論議するまでもなく、問題が存在するわけですから、それを解決するしかないのです。
つまり、「目に見える問題」については、問題意識という言葉は使いません。「目に見えない問題」「気がつかない問題」についてのみ問題意識と言うのです。
ということは、問題意識とは、問題が顕在化する前に問題が生じる可能性を感じとる能力であるといえます。
養生という言葉があります。ふだんから健康に気をつけて養生に努めている人は、わずかな身体の変調を敏感に汲みとって、休息をとったり、医者に相談に行ったりします。だから大病にはかからず長命を全うできるのです。
ところが、日ごろから自分の健康に自信のある人や無頓着な人は養生に努めません。だから突然倒れてあの世行きになったり、病院に行ったときにはもう手遅れだったりします。
この場合、養生に努めるとは、健康について問題意識を持つことにほかならないのです。
問題意識の裏にある「目標意識」
この例ですでにおわかりでしょうが、問題意識の裏には、つねに「目標意識」があります。
問題意識を持つとは、はっきりした目標を持って現状をとらえるということです。目標のない人には、問題意識は生まれてきません。
言い換えれば、問題意識がないということは、現状に満足しているということです。しかしそれは、“現状維持は後退なり”につながっているのです。
だから、部下やまわりの人に問題意識を持たせるためには、自分たちが「今どんな方向に進もうとしているのか」「目標は何なのか」をはっきりさせるべきです。
これが、問題意識の要件の1つ目です。はっきりした目標を持つと、それに到達するためには、どんな問題を解決していかなければならないかが自然に見えてきます。
強い欲求や信念
問題意識の要件として二番目に挙げられるのは、目標を実現したいという強い欲求ないしは信念です。
「自分の家を持ちたい」という目標を持ったとしましょう。
しかし、その目標が、友人が家を買ったから自分も買いたいという程度のものと、自分として、どうしても手に入れたいという強烈な欲求にもとづくものとでは、大きなちがいがあります。
他人を意識し、競争して目標を持つのもけっして悪いことではありません。しかし、できれば、自分で納得できる目標を持つことが大切です。
このように基本的な生活態度にのっとって目標を設定した場合は、その目標は自分の人生にとってどうしても必要な事柄となるので、目標を達成しようという意欲や信念は本物となるのです。
目標の「具体化」
問題意識の特徴として考えられる三番目は、目標についてのイメージをはっきりさせることです。
「家を建てる」という目標を持った場合、その家はどんな家なのか、家の大きさ、外観、内部の見取り図、周囲の環境などについて明確なイメージを持たなければなりません。
なかなかイメージが湧かないときは、自分の欲しいと思う家のイメージに近いものを雑誌やカタログの写真やイラストの中から探し出して、それらを切り抜き、ファイルブックをつくってみます。
それにくり返し目を通していると、そのうち自分の欲しい家のイメージがはっきり固まってきます。
目標のイメージがはっきりしてきて、言葉に出して説明もでき、また絵にも描けるようになると、目標の実現はそう遠くないと言えます。
このように、目標に対していきいきとしたイメージを持つことは、仕事の上でも大切です。
目標に関連した情報をできるだけ多く収集し、そしてイメージに合ったものを取捨選択して整理します。そのうちに、次第にイメージが確定し、自分の具体的ターゲットとして固まってきます。
目標のイメージをはっきりさせるという作業は目標のレベルをはっきりさせるということにもなります。どの程度に実現または達成すればよいのかを、あらかじめ決めておく必要があるということです。
「期限」を意識する
問題意識の条件として四番目に大切なのは、いつまでに、という期限です。目標によっては長期間を要するものもあるでしょう。
しかし、いずれにしても、期限を設けることは必要です。
目標達成の期限が短いほど、解決すべき問題もより困難なものとなりますが、真剣に取り組み、考えればウルトラCクラスの名案も出やすいものです。
「シナリオ」を用意する
問題意識の条件の五番目に挙げられるのは、解決へのシナリオです。
明確な問題意識があれば、かなりの程度、目標達成への「段取り」が見えてくるものです。
どんなステップ、どんな手順で目標へ到達するかのめどがつけば、大まかなシナリオが描けるようになります。シナリオのことは、ロードマップ(行程表)とか、スケジューリング(日程表)とも呼ばれます。
組織の中で目標達成をはかるには、問題意識の共有が必要となります。
個人から発案や問題提起のあった事柄について、組織として目標を明確に設定し、各人のイメージの合成を行って具体的ターゲットを決め、最後に、目標達成までのシナリオを描いてみることが必要です。
ここまで見てきたように「目に見えない問題」に関しては「問題意識」が重要です。問題意識を持つことが問題の発見につながります。そうなって初めて問題の解決へと向かうことができるのです。