1200年続く京都の伝統工芸・西陣織の織物(テキスタイル)が、ディオールやシャネル、エルメス、カルティエなど、世界の一流ブランドの店舗で、その内装に使われているのをご存じだろうか。衰退する西陣織マーケットに危機感を抱き、いち早く海外の販路開拓に成功した先駆者。それが西陣織の老舗「細尾」の12代目経営者・細尾真孝氏だ。その海外マーケット開拓の経緯は、ハーバードのケーススタディーとしても取り上げられるなど、いま世界から注目を集めている元ミュージシャンという異色の経営者。不透明で先行きが見えにくい今の時代に、経営者やビジネスパーソンは何をより所に、どう行動すればいいのか? 細尾氏の著書『日本の美意識で世界初に挑む』(ダイヤモンド社)の中にそのヒントはある。本連載の特別編として、細尾氏の最新インタビューの第3回をお届けする。

「Future in the past」――過去の中に未来はある東京八重洲ミッドタウンにある細尾のショールーム 写真提供:HOSOO

日本の伝統工芸から海外で通用する
グローバルブランドを輩出したい

――東京駅の目の前にできた八重洲ミッドタウンは、オープンして少し経ったと思いますが、1階にあるHOSOOのショップについては、何か反響なり、お客さんからの声とか反応はありましたか?

細尾 そうですね。私たちのような伝統工芸の会社が東京駅の目の前という、ラグジュアリーブランドが入るようなところに店を構えたというところで、やっぱり同業とか、伝統工芸にかかわる方がたにはかなり見にきていただいて、ありがたいことに勇気をもらったとか、やる気が出たというようなコメントをいただいています。

 一方で、今までHOSOOのことを知らなかった人が知っていただく機会にもなっていて、日本の伝統工芸って、西陣織ってこうなっているんだとか、そういったところ、実際に僕らのテキスタイルにも触れられますし、プロダクトも見れますので、世界観も体験いただけるというところで思った以上にそういう反響は大きいですね。

――かなり出店の効果が出ているということですね。

細尾 また東京で見た方が、実際に京都本社のフラッグシップ店にも行ってみたいということでお越しいただいたりという相乗効果も出てきています。HOSOOがこれから目指したいところというのは、まだ日本の伝統工芸から海外で通用するグローバルブランドが輩出されていないという中で、なんとかここに風穴を開けたいなというのがあります。それが工芸を活性化する一番の方法かなと思っています。京都の伝統工芸の後継者のユニットである「GO ON(ごおん)」の活動の時もそうなんですけど、やっぱり多くの人の固定観念をどう壊すかっていうところを常に考えています。

 これから海外に向けて、しっかり認知されるようなブランドにしていくということで、日本の伝統工芸からでもルイヴィトンやエルメスのようなブランドが輩出できるんだっていうことを、多くの方に示していきたいなと考えています。まだまだいろいろなステップは必要なんですけれど。

――あそこ行かせていただいて、ほんとにすごくいい場所にありますよね。

細尾 ありがたいことに駅の真ん前ということで、またあの上にブルガリホテルがありますが、その全室のインテリアにHOSOOのテキスタイルを採用いただいています。まだまだオープンしたてで海外の方の認知もまだ少ないんですけれども、ブルガリホテルもできたということで、これから多くの方に知っていただく一つのキッカケになるかなと思っています。

海外のトップメゾンや建築家、デザイナーとの
コラボレーションの話も加速する

――グローバルブランドというお話がありましたが、確かミラノにも出店されたんですよね。

細尾 今年の2月にイタリア・ミラノにショールームをオープンしました。HOSOOとって初めての海外の常設拠点となります。しかもミラノでもデザインの中心地と言われるブレラというエリアの中の17世紀に建てられた歴史的な建物の中に場所を構えることができました。イタリアのミラノの象徴的な場所にHOSOO、日本、京都の伝統工芸をベースにした会社が入ったというのも一つ、大きいことかなと思います。

 僕らも、ただ、ミラノサローネに出展するだけではなく、イタリアで法人をつくって、現地のスタッフもちゃんと配置することによってHOSOOのショールームが1年を通して常設されるわけです。やっぱりそうすることによって、海外のトップメゾンや、トップ建築家、デザイナーとのコラボレーションの話も加速していきます。また、来年のミラノサローネに向けて、あっと驚くようなイタリア人建築家とのコラボレーションが、今、進行しています。

――ミラノに進出した甲斐は、すぐにあったということですね。

細尾 常設のショールームがブレラという特別なエリアに出せたということも大きかった思います。伝説のデザイナーやクリエイターがふつうに歩いていたりする場所です。 だから、やっぱり外に飛び出してみて、学べることって非常に大きいなと思いました。 自分たち自身も、ただ想像するのと実際に現地にショールームを出してみるのとでは、全然違うなというのは実感としてあります。海外旅行にしても、実際に現地に行くのと、ただグーグルアースで見てなんとなく行ったような気になったのとでは、得るものは大きな違いがありますよね。

――やっぱり行ってみないとわからないことって、いろいろありますよね。

細尾 やっぱりいい意味での人との出会いというか、いい意味でのアクシデントというのが起きたりして、そこは自分たちの思いもしなかった可能性とか、固定観念を壊してくれるヒントになると思いますね。

――やっぱり行動しないと、そういう偶然の出会いも起こらないということなんでしょうね。

細尾 そうだと思います。最終的にどうなるかわからなくても、だいたいこの方向でいけると思ったら、実際にそのように行動してみることで、ある程度、答えが見えてくるというか。方向を間違えちゃダメですけど、方向さえ定めて、あとは実際に飛び込んでみるということが、一番早く成功につながるんじゃないかなというのは、今回、ミラノに出てみて思ったことですね。

日本人はもっと自信を持っていい

――これから実現したい未来は、やっぱりHOSOOをグローバルブランドにするということですか?

細尾 そうですね。そこは自分の代で成し遂げたいことではありますし、伝統工芸でもそういうことができるんだということを示すことによって、今まで伝統工芸と関係なかった若い人たちにもっとこの業界に入ってきてもらって、日本のすばらしいものを世界に広めていきたいと思います。そういう気運をつくっていきたいなというところですね。誰かがそこを突破していく必要があると思います。

 野球でもサッカーでも、最初に野茂選手や中田選手が出て、そこからだんだん固定観念が壊れて海外で活躍する日本人選手がどんどん生まれるようになりましたよね。

――そうですね。

細尾 何がキッカケになるかって、一回誰かが打ち壊したことがキッカケになってくると思うので、そのアクションをしてちゃんとそれを示さないと、いくら可能性があると口で言っても、誰にも響かないと思うので。それでは、固定観念は壊せないのかなと思います。伝統工芸は斜陽産業だということではなく、やり方を変えればクリエイティブ産業にも、成長産業にもなるんだということを示したいなと思います。

――ちなみに京都の伝統工芸の後継者のユニットである「GO ON(ごおん)」は、まだ現在も活動中なんですか。

細尾 はい。活動しています。僕らも、どう次の世代に自分たちがやってきたことをつなげていくかということを大事に思って活動していまして。やっぱり工芸的な社会というか、いいものを長く使い続けていくとか、お直ししながらやっていくとかですね。これからサステナブルの考え方というのはもっと大事になってきますし、ただ、これが土に還って、再生されますよって話だけじゃなくて、もともと着物にあったような、例えば13メートルの反物を8つのパーツに分解して、いっさい捨てるところはないんだということだったり…。

――そうなのですね。

細尾 和裁も基本的には、もともと取り外しがしやすいように縫われているのです。洋裁だと取り外しにくいように、取れないように縫うんですけど、なんで取り外ししやすいように縫うかっていうと、そのあと洗い張りと言って、親から子に受け継ぐときや、長く着たときに、一回それを分解して、そのパーツをまた1本の反物に戻して、洗うわけです。それで新品同様に洗ったり、あとはパーツですので、お尻とかすれている、ダメージが大きい部分は入れ替えることで、長く最後まで使っていくという、この構造自体、もう江戸以前から着物で受け継がれているのです。いいものを長く使い続けていくという、サステナブルな考え方が、既に江戸以前から日本ではちゃんとあるわけです。美しいものを長く使い続けていくという思想ですね。

 先日の日仏フォーラムで、この話をさせていただいたのですが、かなり海外勢の方に響いていましたね。日本の方でも知らない方、結構いらっしゃると思うんですけど。

――私も知りませんでした。

細尾 日本人はもっと自信を持っても良くて、今まで欧米に追いつけ追い越せということでやってきましたけれと、もちろんそこから学ぶこともあるとは思いますが、やっぱり過去の日本から学べることって、すごくあるんですよね。そこに自信と可能性を感じられるんじゃないかなと思っています。まさに「Future in the past」がテーマです。過去の中にどう未来を見つけていくかということを、実践しながら、その可能性を世の中に伝えていきたいと思っています。

――非常に刺激的な、いいキーワードですね。

細尾 著書の中で書いたホイポイカプセルの話も、ただ妄想だけで、口だけで言っていると思われないように、これからも挑戦を続けていきます。 今回、大阪万博のドームを見ていただくと、だいぶホイポイカプセルに近づいてきたんじゃないかなと感じて頂けるのではないかと思います。

――大阪万博、楽しみにしています。本日は、どうもありがとうございました。

細尾 ありがとうございました。

細尾真孝(Masataka Hosoo)
株式会社細尾 代表取締役社長
MITメディアラボ ディレクターズフェロー、一般社団法人GO ON 代表理事
株式会社ポーラ・オルビス ホールディングス 外部技術顧問
1978年生まれ。1688年から続く西陣織の老舗、細尾12代目。大学卒業後、音楽活動を経て、大手ジュエリーメーカーに入社。退社後、フィレンツェに留学。2008年に細尾入社。西陣織の技術を活用した革新的なテキスタイルを海外に向けて展開。ディオール、シャネル、エルメス、カルティエの店舗やザ・リッツ・カールトンなどの5つ星ホテルに供給するなど、唯一無二のアートテキスタイルとして、世界のトップメゾンから高い支持を受けている。また、デヴィッド・リンチやテレジータ・フェルナンデスらアーティストとのコラボレーションも積極的に行う2012年より京都の伝統工芸を担う同世代の後継者によるプロジェクト「GO ON」を結成。国内外で伝統工芸を広める活動を行う。2019年ハーバード・ビジネス・パブリッシング「Innovating Tradition at Hosoo」のケーススタディーとして掲載。2020年「The New York Times」にて特集。テレビ東京系「ワールドビジネスサテライト」「ガイアの夜明け」でも紹介。日経ビジネス「2014年日本の主役100人」、WWD「ネクストリーダー 2019」選出。Milano Design Award2017 ベストストーリーテリング賞(イタリア)、iF Design Award 2021(ドイツ)、Red Dot Design Award 2021(ドイツ)受賞。9月15日に初の著書『日本の美意識で世界初に挑む』を上梓。