誰でも「評論家」になることができる。そのビジネスモデルは、(1)本を書いて「先生」と呼ばれ、(2)テレビ等で顔を売り、(3)講演でもうける、のおおむね3段階だ。投入時間当たりの報酬は講演が圧倒的にいい。だが、経済系、特に運用関係がテーマの講演の仕事は、リーマンショックで半減、東日本大震災でまた半減という感じで減っていた。しかし、最近の「アベノミクス相場」で増加に転じたようだ。資産運用を考えるセミナーや講演が目に付くようになった。
特定の媒体を批判するつもりはないので詮索しないでもらいたいが、先般、筆者はある紙媒体が主催する資産運用をテーマとする講演の仕事を引き受けた。一般向けの講演を行い、講演内容を記事にして、記事と同ページに広告が入るという企画だった。「広告」の片棒を担ぐことが少し心配だったが、部数の多い媒体であり、多くの読者にメッセージが届くことが魅力的だった。主催者も、今回は「レベルを少し上げて、率直な内容を伝えてほしい」という。
この仕事を引き受けた私が悪いのか、悪くないのかの判断は、読者にお任せする。
講演の日程が近づいてきた。講演で使うパワーポイントのスライドを送ったところ、主催者から大量の「注文」が付いた。
「内容の一部が、協賛社にとってネガティブな表現」なのでまずいという。主催者は「(具体的な運用先は金融機関に一任の)ラップファンド」「外債」「金」などの広告をセールスしているという(実際にこれらは紙面に載らなかった)。
これは困った。運用は他人任せにすべきでなく、自分で資産配分を把握していなければならないから、ラップはやるべきでない。また、外貨建ての高金利が円ベースでの高い期待リターンを意味しない点で、外債は、強い円安見通しを持つのでなければ買ってはいけない「相場商品」だ。さらに、金のようなゼロサムゲーム的な「投機のリスク」ではなく、株式・債券・不動産に資本を投じて対価を得る「投資のリスク」のほうが、長期的にリスクテークに対する見返りが大きいので、長期的な資産形成には有利である。
いずれも筆者としては、個人の資産運用にあって「基本」として伝えたい内容に抵触する。「ネガティブなことを書いてある下に、金融機関は広告を出しづらい」と言われても、特に初心者には「こういうこと」こそが大事なのだ。