エース社員でも管理職でもない
「コミュ力」の高い人に学ぶ

 さて、最後に、あなたの身近にいる人にも大いに学ぶべきところがあるかもしれない。リモートと対面のハイブリッド勤務で、社員全員が出社して顔を合わせる機会が少なくなると、努力のたまものか、あるいは天性の才能からか、「コミュ力」の高い社員がいて、折々、細かいところで組織の円滑なコミュニケーションを助け、社員同士の紐帯としての役割を担っていると感じることがあるのではないか。

 こうした人は必ずしもマネジメント層にいるわけではなく、数字で華々しい成果を上げるタイプでもなく、仕事においてはぱっとしない中堅社員であったりする(もちろん仕事もできた上でこういう才能も持ち合わせている人もいる)。そういう人は、周囲のみんなに気を配って、ひとりひとりの社員に対して、絶妙な間合いで、立ち入りすぎない適切な「声かけ」をする。

 カラオケなどの場での振る舞いを例に取ると、かろうじて若い世代の一定数が知っているような流行歌手の歌を難しくてもそこそこ歌えるように勉強している。同時に高齢社員向けの昭和歌謡や、中高年向けのアイドル歌謡にも通じていて、場を盛り上げる。そうやって、その場にいる全員を結び付けてくれるのだ。その人がいることで、「インクルージョン(組織の中でさまざまな人が互いを認め、平等に機会が与えられている状態)」が実現しているということになろうか。そうした人のコミュニケーションの取り方は参考になるはずだ。まねができないとしても、少なくともそうした人の存在に何がしかの敬意を持つべきであろう。

 いずれにせよ、野球の話をしておけば良かった昔とは違って、人を束ねることに異常に大きなコストがかかるのが今日である。経営幹部や管理職は少なくとも、この事態を常に認識しておかなくてはならない。

(プリンシプル・コンサルティング・グループ株式会社 代表取締役 秋山 進、構成/ライター 奥田由意)