昭和時代は「野球・ゴルフ」「健康」「政治」
三種の神器でOKだった
もともと、世代ごとに関心事は違っていた。
自分が若手社員のころは、取引先の偉いおじさんと上司が繰り広げる「プロ野球とゴルフ」「健康」「政治家の派閥闘争」という3点セットを、いつも退屈しながら聞いていた。こちらとしては、まったく関心はないのだけれども、せいぜい話を合わせられるよう、最低限の知識は学習するようにしていた。といっても、ありがたいことに、どこへ行ってもおじさんたちは同じ話題で盛り上がっていて、しかもその内容が浅いので、3点セットの最新トピックのニュースを流し読みしておくだけで事足りたのである。
しかし、現在は、世代ごとの差がなくなったわけではないものの、それよりも個人ごとの違いが大きくなった。大学生でも、漫画(アニメ・実写映画の)『キングダム』の話に反応してくれる人もいるし、宝塚歌劇が好きな人、イギリスのサッカーや、ESG(環境・社会・ガバナンス)、AI、仏像好きもいる。とにかく多領域で、どれも少数ずつなのだ。みんなで盛り上がる話題を探そうと思っても、一つの話題で皆の関心を引こうとすることは不可能に思われる。
こういった状況下で役立ちそうなものとしては、接客業のプロの秘訣のような話だ。それによると、話のネタとして使えるものは、天気ネタ、趣味ネタ、ニュースネタ、旅ネタ、知人・友人ネタ、家族ネタ、健康ネタ、仕事ネタ、ファッションネタ、食べ物ネタ、住まいネタなどがあるという。そしてそれらを的確に回しながら、「さすがですね」「知らなかったです」「すてきですね」「センスがいいですね」「そうなんですか~」の“さしすせそ”で受け答えしていれば、会話は弾むということらしい。
これらは大変参考にはなる。しかし、お店に個別性の高い社交を求めてくるお客様との会話であればいいが、仕事(だけ)をしに来ている社員たちとの会話は性質が異なるから、これをそのまま当てはめるのも難しい。また、社員の関心事を探ろうと、あれもこれもといろんな話を根掘り葉掘り聞き出そうとすると、プライバシーの侵害と認識されるかもしれないから、事はさらに厄介である。
となると、会社において何か話をする場面があるとすれば、そこで使う話題は“仕事ネタだけ”に限定しなければならない時代だと覚悟した方が良い。そして、仕事の話で盛り上げる努力をしなければならない、ということであろう。