「話せばわかる」と言うけれど、どれだけ話してももやもやが消えないことはある。
2万人をみてきた組織開発コンサルタント・勅使川原真衣氏が、実際に職場に分け入って考えた、組織変革のコツを伝えます。(構成/ダイヤモンド社書籍編集局)(初出時より一部表現をブラッシュアップいたしました。2026年7月17日10:50 書籍編集局)
Photo: Adobe Stock
「何でも言ってね」と言われても
「困っていることがあったら、何でも言ってね」
上司からそう言われて、「はい、ありがとうございます」と答えたものの、結局何も相談できなかった。
そんな経験はないでしょうか。
上司に悪気はありません。むしろ、部下の話をきちんと聞こうとしている、理解のある人かもしれません。それでも部下は、相談しにくいもの。
「こんなことを相談したら、能力がないと思われるかもしれない」
「忙しそうだから、今はやめておこう」
「そもそも、何に困っているのか自分でもうまく説明できない」
こうして何も言えないまま時間が過ぎ、上司は「特に問題はなさそうだ」と受け取ります。しばらくして仕事がうまくいかなくなると、「どうしてもっと早く言ってくれなかったの?」となる。
自然にわかり合えるとは限らない
職場では、こうしたすれ違いがよく起きています。
形骸化した1on1などもその良い例でしょう。
対話はもちろん大切です。ただし、話す機会さえ増やせば、自然にわかり合えるとは限りません。
なぜなら、同じ言葉を使っていても、頭の中に思い浮かべているものが違うからです。
たとえば、上司が「もっと〈主体的に〉動いてほしい」と伝えたとします。上司は、自分で判断してどんどん進めてほしいと思っている。一方、部下は、周囲に確認しながら慎重に進めることが「〈主体的に〉仕事をすること」だと考えているかもしれません。
二人とも真面目に仕事をしています。
それなのに、上司から見れば部下は「指示待ち」に見え、部下から見れば上司は「説明が足りない人」に見えるということが起きる。
この状態で「もっと話し合おう」と面談を増やしても、同じ言葉を同じ意味で使っていると思い込んでいれば、すれ違いはなくなりません。
むしろ、お互いに「何度話しても伝わらない」と違和感が募り、疲れてしまいます。
良い意味で「割り切る」
ここで大切なのは、話す量をやみくもに増やすことよりも、自分と相手の違いを知ることです。
考えながら話すのが得意な人もいれば、一人で整理する時間がないとうまく話せない人もいます。ざっくり任されると動きやすい人もいれば、目的や役割がはっきりすると力を発揮する人もいます。
難なくわかり合える相手とは、たまたまあなたと考え方や感じ方が近かったというだけ。組織はさまざまな持ち味を持った人が合わさることでうまく回っていきますから、あなたと似ていない相手がいるのは当然です。
そこで必要なのは、観察すること。そもそも、話す前に相手のことをよく見ているか、ということを問いたい。
「何でも話して」と言われて話せる人ばかりではありません。会議では発言しにくくても、文章なら考えを伝えられる人もいます。頻繁に声をかけられると安心する人もいれば、集中を妨げられ、苦しくなる人もいます。
リーダーに必要なのは、全員に同じ話し方を求めることではありません。
逆に言えば、「全員同じ」にしようとしなくてよいのです。
この人は、どんな場面なら話しやすいのか。どんな情報があれば動きやすいのか。誰と組むと力を発揮しやすいのか。そうした違いを観察することで、互いが働きやすい道が見えます。
対話は、相手を自分の考えに近づけるためのものではなく、無理なく互いの持ち味を発揮できる方法を見つけるためのものです。
「話せばわかる」と思う前に、「この人からはどう見えているだろうか」と立ち止まってみてください。
組織を変える手がかりは、面談の回数ではなく、会話の中で感じた小さな違和感にある。
その違和感をなかったことにせず、相手との違いを知る入り口にすること。それが、より良く働くための第一歩なのです。






