藤井聡太八冠 Photo:JIJI藤井聡太八冠 Photo:JIJI

八冠を狙う藤井聡太七冠と名誉王座の資格がかかる永瀬拓矢王座との「絶対に負けられない戦い」。息詰まる攻防は、驚くべき大逆転で幕を閉じた。AERA 2023年10月23日号より。

異次元の偉業達成

 なにからなにまで常識を超える、異次元の偉業達成だった。

 永瀬拓矢王座に藤井聡太七冠が挑戦した第71期王座戦五番勝負。第4局は10月11日におこなわれ、20時59分、138手で藤井の勝利。藤井はシリーズを3勝1敗で制し、王座を獲得するとともに、将棋界に存在する八大タイトルのすべてを制覇。史上初の八冠を達成した。

「まず、このような結果を出せるとはやはり、自分自身でも思っていませんでしたので、そのことはすごくうれしく思っています。一方で、今回のシリーズも本当に苦しい将棋が多かったですし、実力としてはやはり、まだまだ足りないところが多いということを変わらず感じていますので、その地位に見合った実力をつけられるように、今後いっそう取り組んでいかなくてはいけないかなと思っています」(藤井)

 観戦者の目には究極のゴールのようにも映る八冠制覇を成し遂げたあとでも、藤井の発する言葉は、これまでと変わらない謙虚なものだった。

歴史的名シリーズ

 改めて振り返れば、今期王座戦は観戦者の期待に違わぬ、歴史的な名シリーズだった。一方の雄である永瀬には王座5連覇、および「名誉王座」の資格がかかっていた。永瀬と藤井は早くから互いに認め合い、練習対局でも切磋琢磨してきた間柄だ。永瀬にとって藤井は10歳下の後輩ながら、尊敬してはばからない存在だった。藤井にとって永瀬は、八冠ロードの最終関門にふさわしい難敵だろう。

 第1局は藤井先手。通算勝率8割3分台と信じられないような高勝率を誇る藤井は、特に先手番ともなれば無敵に近い。昨年度は先手番29連勝という歴代最高記録をマーク。今年度もそこまで先手番13戦無敗中だった。藤井は終盤まで有利に進めた。しかし永瀬は不屈の闘志で粘り続け、ついに逆転。永瀬会心の「ブレイク」を果たした。

「将棋は逆転のゲーム」と言われる。プレイヤーには酷だが、観戦する側にとっては、それが将棋の醍醐味とも言える。

 第2局は先手の永瀬がうまく指し進め、優位を築く。しかし終盤の失着で逆転。永瀬が容易に土俵を割らず、互いに玉が相手陣に入り込む「相入玉」になったあと、最後は藤井が永瀬玉を詰まして、214手にも及ぶ長手数の大熱戦を制した。

 第3局は後手番の永瀬が会心の指し回しで勝勢を築く。しかし最終盤、時間が切迫した永瀬は、自玉への王手の対応を誤る。直後に藤井の鮮やかな攻防手が放たれ、逆転で藤井の勝ちとなった。