入れ歯が危ない!「しっかりしたいい入れ歯を作れなくなる日がやって来る」と歯科医師たちが危惧するのは、作り手である歯科技工士を取り巻く問題の数々だ。今や引っ張りだこの歯科衛生士たちと好対照を成す。『決定版 後悔しない「歯科治療」』(全23回)の#10では、歯科技工士たちを悩ませる構造問題を見つめていく。(ダイヤモンド編集部論説委員 小栗正嗣)
歯科医院から引っ張りだこの衛生士
7割が職を離れてしまう技工士
「歯科技工士」は歯科技工士法、「歯科衛生士」は歯科衛生士法に基づく国家資格だ。
歯科技工士は、歯科医院や歯科技工所で働き、患者の歯を補う詰め物や歯冠、入れ歯(デンチャー)、矯正装置などの加工、修理をする。歯科衛生士は歯科診療の補助、虫歯や歯周病を予防する措置や歯磨きなどの保健指導を行う。
同じ歯科の国家資格を持ちながら、歯科技工士はその7割強が歯科技工所で働いているのに対して、歯科衛生士の方は8割以上が歯科医院に勤務している。
両者の違いは勤務先だけではない。
歯科衛生士については、歯科医師たちが「今の最大の悩みは歯科衛生士が採用できないこと」「せっかく採用してもすぐ、いい立地の他院に移ってしまう」と口々にぼやくように引っ張りだこだ。「予防歯科の担い手としてまさに奪い合いとなっており、賃金も急騰している」(木村泰久・M&D医業経営研究所代表取締役)というのである。現に2020年度の歯科衛生士養成校の卒業者数は6752人、就業者数6182人。対する求人件数7万9444件、求人人数は11万9994人、求人倍率19.4倍だった。
それに対して、歯科技工士はどうか。歯科技工士の求人倍率は、歯科衛生士には及ばないものの求人はある。問題は供給そのものの減少だ。21年度歯科技工士国家試験の合格者数は827人。全国の歯科技工士養成学校が次々と閉校、募集停止になっていることも響き、この5年間の合格者は798~902人と年800人ほどにとどまる。
しかも、「せっかく歯科技工士の国家資格を得た人が辞めていってしまう」(砂川稔・千葉県歯科医師会歯科技工士プロジェクトチーム委員長)。18年の歯科技工士免許登録者数は12万0157人、その中で歯科技工士の業務に従事する人は3万4468人、就業割合は28.7%にすぎなかった。卒業後の離職率が7割を超えるわけだ。
歯科医たちからはこんな危機感が漏れてくる。「いい入れ歯の作り手がいずれ、いなくなってしまうのではないか」――。国家資格を取っても離職した人が7割を超えるのはなぜか。