後悔しない「歯科治療」#9Photo:Photolibrary

ドラッグストアの棚には、歯磨き粉やマウスウォッシュがこれでもかと並んでいる。薬用成分も多種多様だ。この中で、本当に薦められるコストパフォーマンスのいい商品はどれなのか。『決定版 後悔しない「歯科治療」』(全23回)の#9では、薬用成分のエビデンス判定と価格によって、コスパのいい市販の歯磨き粉ベスト3を選定した。(医学ライター 井手ゆきえ)

薬用成分のエビデンスをレベル判定
虫歯予防には何といっても「フッ化物」

 ドラッグストアの棚にこれでもかと並んでいる、歯磨き粉やマウスウォッシュ(洗口液)。薬用成分も多種多様で、成分の表示は細か過ぎて何がなんだか分からない。その中で薦められる、コストパフォーマンスのいい歯磨き粉はどれなのか。まずはエビデンス(科学的根拠)をチェックするところから始めてみよう。ビジネスパーソンが気を付けたい、大人の虫歯と歯周病に対する効果が認められた成分を見てみよう。

 歯磨き剤は研磨剤、発泡剤などの基本成分のみで構成された「化粧品」と、薬用成分が配合された「医薬部外品」に大別される。

 薬用成分は実験室で薬効が認められ、安全に使える分量の使用が厚生労働省によって承認された成分を指すが、治療を目的とした医薬品とは異なり、単品で薬効を発揮するほど強力なわけではない。また、人を対象とした臨床研究などで強いエビデンスが積み上がっているのは一部にとどまる。あくまで毎日のブラッシングとの併用で「予防効果」を発揮すると心得ておこう。

●虫歯予防「フッ化物」……◎

 フッ化物は現時点で虫歯(う歯)予防の効果があると、明確に証明された唯一の薬用成分だ。予防率は30~40%、中高年がなりやすい「根面う蝕」の予防効果は67%と高い。市販品ではフッ化ナトリウム(NaF)、モノフルオロリン酸ナトリウム(MFP)、フッ化第一スズ(SnF2)が使われている。どれが最も有効性が高いか知りたいところだが、今のところ専門家の意見は分かれている。

 フッ化物の予防効果は濃度に依存するため、市販品で認められた上限濃度の1500ppm(実際は上限を超えないよう1450ppmに抑えている市販品がほとんど)が配合された歯磨き剤を選ぼう。また、夜間は唾液の分泌が減少するので、日中よりフッ素が口腔内に長くとどまれる。就寝前の歯磨きは理にかなっているわけだ。なお、6歳未満の子どもが使用できるフッ化物の上限濃度は1000ppmなので未就学児との共用は避けること。

●歯周炎・歯周病予防 ①トリクロサン(TC)……○

 昔から手術時の手指消毒に使われてきたトリクロサン(TC)は、人に対する臨床試験で歯垢と歯肉炎に対する効果が証明されている。ただ、口の中にとどまる力が弱いので、配合の工夫が必要だ。歯肉炎の再発を繰り返す人を対象に行われた3年間の追跡調査では、再発、進行を抑える効果が確認された。TC入りの歯磨き剤は米国歯科医師会が認可している。

 2018年、米食品医薬品局(FDA)はTCなど19の成分が配合されている「抗菌せっけん」の販売を停止した。抗菌せっけんや消毒液が大量に使われることで、環境中に薬剤耐性菌が出現するリスクがあると判断したためだ。このときは各社に関連データを再提出させてFDAが精査した上で、販売の中止、継続を勧告している。歯磨き剤のコルゲート トータル(米コルゲート・パーモリーブ)も調査対象になったが、あらためて歯肉炎の予防に有効であることが報告され、販売も継続している。

●歯周炎・歯周病予防 ②塩化セチルピリジニウム(CPC)……○

 陽イオン界面活性剤。口の中の細菌の細胞膜を壊すことで殺菌力を発揮する。海外の試験では6カ月間の使用で歯垢と歯肉炎の進行抑制効果が確認されているが、国内で流通している歯磨き剤の濃度の上限は0.01%と、海外の0.5~0.1%よりかなり低く設定されている。

●歯周炎・歯周病予防 ③イソプロピルメチルフェノール(IPMP)……△

 ラボで薬効を認めた成分で、歯垢(バイオフィルム)の奥深くに浸透して殺菌力を発揮するとされている。人を対象としたエビデンスは不足している。

 大人の虫歯と歯周病が気になる世代がシンプルに選ぶなら、まずフッ化物が1450ppmで配合されていることが条件だ。フッ化物は配合されているが配合濃度の低い、記載がない製品は次善の選択になる。

 次に歯肉炎・歯周病予防の殺菌剤として、人を対象とした臨床研究と長期的なエビデンスが確立している薬用成分が入っているかどうかがポイント。ラボで効果が確認された成分でも、実際の「現場」で効果を長期的に発揮できるかどうかは人対象の研究を積み重ねないと分からないからだ。国内では高濃度フッ化物プラスTC、クロルヘキシジン(CHX)もしくは塩化セチルピリジニウム(CPC)配合の歯磨き剤が第一選択になる。

 このように人対称のエビデンスのレベルによって含まれる成分に加点評価し、さらに実売価格を単純比較して、コスパが良い歯磨き粉ベスト3を選定した。

 3位に入ったのはライオンの「システマEX トータルケア 130g」。では1位、2位に輝いた歯磨き粉はどれか?