前回の記事で、北九州の人気チェーン「資さんうどん」が好調の裏で急速にDXを推し進めていたことを紹介した。実はその資さんうどんのDXを支え、伴走しているのが、同じく九州のホームセンター「グッデイ」である。しかしグッデイは、15年前まではメールもホームページもない、極めてアナログな会社だった。それが2015年にクラウドへ舵を切り、約10年で売り上げ26%増を果たした同社は、ついに、90年代から作り込んできた店舗の基幹システムをクラウドに完全移行し、Webアプリケーション化を成し遂げた。さらにはPOSもクラウド化し、分断されていたデジタルマーケティングと基幹システムの連携を強化する。小売のラスボスとも言える複雑怪奇なシステムを掌握した今、「IT企業のようなシステム開発を目指す」と語る3代目社長の柳瀬隆志さん、その心は?(ノンフィクションライター 酒井真弓)
2008年、グッデイの連絡手段は紙・固定電話・FAXのみ
毎月の店長会議では1万枚の資料を印刷
北部九州と山口県を中心に64店舗を展開するホームセンターのグッデイ。2008年2月、次期社長候補としてグッデイに入社した柳瀬さんは、売り上げの大きい西福岡店に配属され、店舗運営を一から学ぶことになった。
課題が山積みであることはすぐに分かった。まず驚いたのは、社内で誰一人メールアドレスを持っていなかったことだ。柳瀬さんは2000年に新卒で三井物産に入社したが、初日から当たり前のようにPCとメールアドレスが配布された。営業部に配属されてからは海外出張も増えたが、携帯電話とPCさえあれば世界中どこにいても仕事ができた。
一方、グッデイはといえば、連絡手段は紙、固定電話、FAXに限られていた。毎月の店長会議では1万枚の資料を印刷し、エリアマネージャーが大会議室に半日こもってファイリングしていた。資料の差し替えが発生したら一からやり直し。「家業とはいえ不便な会社に入ったものだ」と実感したという。
会社の公式Webサイトは存在せず、集客・販促は、新聞の折り込みチラシに限られていた。なぜWebサイトがないのか聞いてみると、「うちのお客さまは誰も見ませんから」。柳瀬さんには、「お客さま」を盾に面倒なことを避けているように見えたという。
ただ、店舗で働いていると、グッデイの長所も見えてきた。社員は皆、DIYや園芸の知識が豊富で、来店客からの質問に一切よどみなく答えるのだ。グッデイは現場の社員がいい。それなのに、ワクワクするようなビジョンもなく、ただ目の前の作業に忙殺され、売り上げも増えない。宝の持ち腐れになっていたのだ。この状況を打破し、20年、30年と成長し続けられる企業に変えていくには――当時31歳の柳瀬さんに突きつけられた課題だった。