京セラ創業、KDDI躍進、JAL再建――稀代の名経営者、稲盛和夫は何を考えていたのか?
2つの世界的大企業、京セラとKDDIを創業し、JALを再生に導きますが、稲盛和夫の経営者人生は決して平坦なものではありませんでした。1970年代のオイルショックに始まり、1990年代のバブル崩壊、そして2000年代のリーマンショック。経営者として修羅場に置かれていたとき、稲盛和夫は何を考え、どう行動したのか。この度、1970年代から2010年代に至る膨大な講演から「稲盛経営論」の中核を成すエッセンスを抽出した『経営――稲盛和夫、原点を語る』が発売されます。刊行を記念して、本書の一部を特別に公開します。

「私はあなたを頼りにしている」稲盛和夫が最も大切にしていたことPhoto: Adobe Stock

「経営のカリスマ」が最も大切にしていたこと

 企業経営で最も零細な形態は、自分一人、あるいは奥さんと二人で事業を行う家内工業、個人商店のようなケースですが、それではいくらがんばっても、伸び代は知れています。事業を拡大していくには、どうしても社員を雇用しなければなりません。一人でも二人でも社員を採用し、彼らと一緒に仕事をし、成長発展を目指していくのです。

 そのとき、雇用主として経営者は、月々いくらの給料を出すと条件を提示し、従業員はその条件で自らの労働力を提供することに同意するわけです。それは雇用契約に基づくドライな労使関係であり、本来、両者はパートナーではありません。

 しかし、経営者一人でいくら努力をしてみたところで、どうしても限界があります。特に零細企業では、他に頼るべき人がいないわけですから、そのわずかな従業員をパートナーとしていかなければなりません。自分と同じ気持ちになって、仕事にあたり、事業を支えてくれる。まさに自分と一心同体になって仕事をしてくれるパートナーとすることが、どうしても必要になってくるのです。

「私はあなたを頼りにしている」

 つまり、従業員に対して、「共同経営者」なのだというくらいの気持ちで接していくことが大切になると私は考えています。一人であれ二人であれ、人を雇用したときには、その人をパートナーとして迎え入れ、「あなたを頼りにしている」という言葉をかけ、日々そのような姿勢で接することが必要になるのです。

 そんなことをすれば、従業員になめられはしないだろうかと、つい思いがちですが、そうではありません。「私はあなたを頼りにしています」と、真正面から従業員に言い、そう接することが、社内の人間関係を構築する第一歩になります。

「皆さん、私と一緒になって、会社を発展させていこうではありませんか。そのために全面的に協力してください。私は皆さんと、兄弟あるいは親子のような気持ちでともに仕事をしていこうと考えています。単なるサラリーマンを超えた、そういう思いでともに仕事をしていきましょう」と、面と向かって言わなければならないのです。

 この「あなたを頼りにしている」という言葉が、また経営者が従業員をパートナーとしてとらえているという姿勢が、従業員をモチベートしていくことになるはずです。このことは、特に零細企業にとって、非常に大切なことです。

京セラ創業時、稲盛和夫が考えたこと

 私も、京セラを創業して間もない頃、さまざまな機会を見つけては、胸襟を開いて、会社をこうしたいという自分の考えを、従業員たちに話すように努めました。それは、やはり従業員を経営のパートナーと考えていたからです。パートナーであるからには、私の考えを理解してもらわなければなりません。

 そして、そのような私の思いがあったからこそ、従業員も真摯に私の話に耳を傾けてくれました。「この社長にならついていこう。会社の待遇は決して良くはないけれども、この人となら生涯をともに歩んでも良いのではないか」という気持ちが芽生えてくるくらい、強固な人間関係を企業内につくっていこうと、私は懸命に努めたのです。

 小さな企業であれば、社員にしてあげられることにも限りがあります。仕事は厳しいけれども、決して待遇は良くない、それでも社長の期待を強く感じて、「条件だけで言えば、もっと良い会社があるけれども、そこへ行くよりは、零細企業であっても、この会社でがんばりたい」と、従業員が思ってくれるようにしていかなければなりません。

会社を成長させる、シンプルな考え方

「社長がそうおっしゃってくれるなら、私も全力を挙げて手伝いましょう」と、従業員が心の底から言ってくれるような、心と心で結ばれた関係をつくることが、小さな会社を発展させていこうとするときに、まずは必要になることです。

 経営者は、従業員に給料もボーナスも払っていますが、そのような利害関係を超えて、社長になんとしてもついていくという従業員との関係を企業内につくらなければ、会社というものは決して立派になっていかないのです。

 心と心が通じ合った関係、まさに一体感をもった会社、そういう組織をつくっていく、これが企業統治の第一歩です。

(本原稿は『経営――稲盛和夫、原点を語る』から一部抜粋したものです)