空が青い理由、彩雲と出会う方法、豪雨はなぜ起こるのか、龍の巣の正体、天使の梯子を愛でる、天気予報の裏を読む…。空は美しい。そして、ただ美しいだけではなく、私たちが気象を理解するためのヒントに満ちている。SNSフォロワー数40万人を超える人気雲研究者の荒木健太郎氏(@arakencloud)が「雲愛」に貫かれた視点から、空、雲、天気についてのはなしや、気象学という学問の面白さを紹介する『読み終えた瞬間、空が美しく見える気象のはなし』が発刊された。西成活裕氏(東京大学教授)「あらゆる人におすすめしたい。壮大なスケールで「知的好奇心」を満たしてくれる素敵な本だ」、鎌田浩毅氏(京都大学名誉教授)「美しい空や雲の話から気象学の最先端までを面白く読ませる。数学ができない文系の人こそ読むべき凄い本である」、斉田季実治氏(気象予報士、「NHKニュースウオッチ9」で気象情報を担当)「空は「いつ」「どこ」にいても楽しむことができる最高のエンターテインメントだと教えてくれる本。あすの空が待ち遠しくなります」と絶賛されている。今回は、気象予報士の太田絢子氏の原稿を特別に掲載します。

【気象予報士に素朴な疑問を聞いてみた】なぜ雪の予報は難しいのか?Photo: Adobe Stock

不慣れな地域こそ大きくなる雪の影響

 冬になると、太平洋側の地域でも一年に数回は雪が降ります。太平洋側の地域は日本海側ほど雪に慣れていないため、少しの雪でも東京や名古屋などの都市部では交通機関が大幅に乱れ、物流も滞るなど、私たちの日常生活に大きな影響が出ます。

 しかし、太平洋側の地域は、正確な予報が難しいのが現状です。雪の予報が出ても、まったく降らなかったり、雨になったり、予想以上の大雪になることもあります。

 なぜ、太平洋側の雪の予報は日本海側に比べて当たりにくいのでしょうか。

新幹線の運行にも大きく影響する天下分け目の雪

 冬になると、日本を挟んで西側の大陸に高気圧、東の海上に低気圧が位置する「西高東低」、いわゆる冬型の気圧配置になることが多くなります。冬型の気圧配置になると、冷たい空気がユーラシア大陸から日本に向かって吹き出しやすくなり、日本海の上で雪雲を作るようになるのです。

【気象予報士に素朴な疑問を聞いてみた】なぜ雪の予報は難しいのか?2022年12月24日の天気図。強い冬型の気圧配置により広い範囲で大雪となった。名古屋では8年ぶりに10センチメートル以上の積雪を観測し、東海道新幹線にも遅れがでた。(図:ウェザーマップ)

 日本海で発生した雪雲の多くは日本海側で雪を降らせ、本州を貫く奥羽山脈などの脊梁山脈を越えることができません。しかし、実は太平洋側につながる抜け道がいくつかあります。

 なかでも東海道新幹線の運行に大きな影響を及ぼすのが、岐阜県と滋賀県にまたがる伊吹山と、その南に位置する鈴鹿山脈との間の抜け道です。 ここには「天下分け目の戦い」で知られる岐阜県関ケ原町があります。関ケ原町から滋賀県米原市付近にかけて、若狭湾から雪雲が次々と流れ込み積雪が増えると、新幹線の遅れにつながることがあるのです。

 若狭湾から吹く風が、北風や北北西風だと京都市内や大津市、三重県を中心に雪が降りやすくなりますが、北西風など西の成分が多くなると、関ケ原町や米原市、その先に広がる名古屋市内でも雪が降りやすいです。

 このように、微妙な風向きの変化によっても雪の降る場所が変わる上に、上空の風が強まると予想以上に日本海側から太平洋側に雪雲が流れ込んでくることがあります。このため、雪の降る直前でもどこでどのくらい雪が積もるのかを正確に予報するのは困難なのです。

関東地方に雪をもたらす「南岸低気圧」

 関東地方はその北側から西側にかけて、背が高く幅の広い山々に囲まれているため、冬型の気圧配置のときには雪雲が流れ込みにくい地形となっています。関東地方に雪をもたらすのは、日本の南海上を通過する「南岸低気圧」がほとんどです。

【気象予報士に素朴な疑問を聞いてみた】なぜ雪の予報は難しいのか? 2014年2月14日の天気図。15日にかけて、南岸低気圧に伴って関東甲信地方で記録的な大雪が発生した。(図:ウェザーマップ)

 しかし、南岸低気圧の雪も予測が非常に難しいのが現状です。低気圧がどこを進むのか、どのくらい発達するのか、雲の広がり方や地形、上空と地上の気温や湿度、風など、様々な要素が複雑に絡み合っていることがその理由です。雪の予測は日々研究が進められていますが、直前でも予報が大きく変わることがあります。

 太平洋側の雪は予報に不確実性があることを念頭において、日頃からの備えを強化しておきましょう。

(本原稿は、荒木健太郎著読み終えた瞬間、空が美しく見える気象のはなしの内容と関連した、ダイヤモンド・オンラインのための書き下ろしです)

太田絢子(おおた・あやこ)
気象予報士・防災士・気象防災アドバイザー。
愛知県出身。中学生のころから気象に興味をもち、早稲田大学在学中に気象予報士試験に合格。卒業後は損害保険会社に就職し、交通事故や自然災害に遭った人へのサービス業務に従事。自然災害が多発するなかで、災害の被害に遭う人をゼロにしたいと思うようになり、気象キャスターへ転身。これまでNHK松山やCBCテレビで気象解説を行う。編集協力に『もっとすごすぎる天気の図鑑』『雲の超図鑑』(以上、荒木健太郎著/KADOKAWA)、『読み終えた瞬間、空が美しく見える気象のはなし』(荒木健太郎著/ダイヤモンド社)、気象監修に『RE:VISION ART PROJECT(気候変動と難民問題の未来を描き換えるアートプロジェクト)』(国連UNHCR協会)などがある。現在はアメリカ・ロサンゼルスに在住。
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