世の中の「当たり前」に流されないための「理念」

佐宗 山崎さんのお話を伺っていると、理念を軸にした経営をさまざまな角度から実践されているのが伝わってきますね。

少しだけ方向性が違うお話になってしまうのですが、最後にコロナ後の話を少しお聞きしたいです。ぼくは一経営者として、コロナによって世の中のモードが変わったなと感じているのですが、これからどんなふうにギアを入れていくか、正直迷っています。山崎さんはポストコロナの今、こんなところを変えてみようなどと考えているポイントはあったりしますか?

山崎 コロナの前後を比較したとき、世の中はたしかに変化しましたが、やはりコロナは一つのファクターでしかないと感じています。世界情勢や円安など、さまざまな変数があって、何がどう影響してくるのかが読みきれません。率直に言って、まったくの手探り状態ですね。

ただ、一つ確実に言えるのは、世の中自体が多様化しているということ。だからこそ、世の中で「当たり前」かのように言われていることが、必ずしも自社に当てはまるとは限らないということです。

たとえば、コロナ前に「これから来る小売は?」と質問されたとき、ぼくは「百貨店は面白いと思います」と答えていたんですが、多くの人から「ほんとですか??」と言われました。ですが、コロナが明けた今、ニューリッチと言われる若い世代がブランド品やアートを買うために百貨店に行っているんですよね。

メディアでは「若者はブランド品を買わない」「百貨店はもう終わりなのでは?」みたいなことが言われていましたし、わりと多くの人がそれを信じていたと思います。ですが、蓋を開けてみると、メディアで言われているのとはまったく違うことが、自分たちの目の前で起こっている。

こういう時代だからこそ、メディアで言われていることに流されるのではなく、お客さんにちゃんと向き合って、自分たちが提供していきたい価値を肌感覚でつかんでいくしかないですよね。そのための軸になってくれるのが「理念」なんだと思います。

そういう問題意識を持っている人にとって、佐宗さんの『理念経営2.0』はうってつけの本だと思いますね。とてもわかりやすいつくりになっていますから、丁寧に最初から読んでいけば、だれでも自社なりの理念経営の姿が見えてくるようになっていると思います。

佐宗 そう言っていただけてうれしいです。変化の激しい時代だからこそ、理念を持って経営していくことが大事なんだなと、山崎さんのお話を聞いて改めて思いました。本日はどうもありがとうございました!

売上目標を決めるのは、本社ではなく各店舗。自律性を引き出すマザーハウスのすごいしくみ

(対談おわり)