「途上国から世界に通用するブランドをつくる」という理念を掲げ、バングラデシュをはじめとした発展途上国で生産したアパレル製品や雑貨などを販売するマザーハウス。2006年の創業以来、代表の山口絵理子さんとともに同社を牽引してきた山崎大祐さん(副社長)は、佐宗邦威さんの著書『理念経営2.0』について「困っている経営者がすぐに使える」「書いてあること全てがエッセンス」と絶賛している。
一方で、マザーハウスは佐宗さんが『理念経営2.0』を執筆するうえで大いに参考にした企業の一つでもある。このたび、書籍刊行をきっかけとして、お二人による対談が実現した。その一部始終をご紹介する(第4回/全4回 構成:フェリックス清香 撮影:疋田千里)。
予算は「本社」ではなく「店舗」が自ら決める
佐宗邦威(以下、佐宗) 小売業というのは、比較的トップダウンになりやすいビジネスだと思います。それにもかかわらず、マザーハウスのなかには「これが会社のためになるだろう」と考えて自発的に行動する人がいたり、新規事業のピッチコンテストができるほど現場からアイデアが出てきたりと、組織の自律性がかなり高い印象を受けます。それはなぜなんでしょうか?
山崎大祐(以下、山崎) 大前提として、理念に共感している人が働いているからでしょうね。採用時の最終面接は全員ぼくがやっていて、理念を自分ごと化できているかどうかをこだわって見ています。共感の仕方は人それぞれですが、会社のことを自分ごととして考えている人しかここでは働いていないんです。
佐宗 まさに理念経営。採用時からそこをきちんと見ているのですね。
山崎 そうなんです。それから、自分たちで数字や戦略を考える機会が非常に多いことも挙げられると思います。マザーハウスでは、経営プレゼンというものが年に2回あって、全店が全社の前で、自分たちの数値目標や戦略、コンセプトを発表しなければいけないんです。
佐宗 数値目標それ自体もお店が決めるんですか?
山崎 そうなんです。予算も店舗側でつくってもらいます。そのうえで、経営プレゼンでは「なぜその予算なのか」の理由も説明してもらうわけです。小売業では、全体の数字を本社でつくって個別の店舗に下ろすというパターンが多いと思いますが、マザーハウスでは数字も自分たちで考えないといけないので大変です。
最終的にはもちろんぼくが確認して、「この店長の予算はいつも強気すぎるから、少し下げませんか」などと指摘するのですが、納得いくまで対話をしてつくっていくので、おのずと自律的に考える習慣がついていくんでしょうね。
佐宗 自分たちで予算をつくり、それを全社の前でプレゼンして、その議論の過程を全員が見るということですよね。それは社員に対する大きなメッセージになりますね。
山崎 そうですよね。加えて、ぼくが現場にしょっちゅう行くことも、自律的に動ける理由の一つでしょう。行ったときには必ず雑談をするようにしています。「最近はどんなことに困っている?」というような話です。ぼくとしてはその場で、できるかぎりいいアイデアを提供したいと思っています。彼らもそこで「たしかにいいアイデアだな」と思えば、自分でブラッシュアップして、すぐに行動に移してくれますよ。
佐宗 彼らが自律的に動くための「タネ」を山崎さんが蒔いているわけですね。
株式会社マザーハウス代表取締役副社長
1980年、東京生まれ。慶應義塾大学総合政策学部を卒業後、ゴールドマン・サックス証券に入社。日本法人で数少ないエコノミストの一人として活躍し、日本およびアジア経済の分析・調査・研究に従事。在職中から後輩の山口絵理子氏(現・マザーハウス代表取締役)の起業準備を手伝い、2007年3月にゴールドマン・サックス証券を退職。マザーハウスの経営への参画を決意し、同年7月に副社長に就任。現在、マーケティング・生産の両サイドを管理。また、さまざまなテーマで社外の人と議論を深める「マザーハウス・カレッジ」も主催。