自律性を引き出す「評価」のしくみ
山崎 あと、社員の自律性に関して言うと、評価の面での工夫もあります。マザーハウスには「全社貢献」という評価項目があるんですよ。もちろん各店舗には目標数字があって、その達成度などに基づいた一般的な評価もあります。ですが、それとはいっさい関係なく、自分なりに会社に貢献したと思うことを書いてもらう項目があるんです。
たとえば、倉庫の片づけ募集があったときに手を挙げて参加したとか、同僚の誕生日会を企画したとか、催事を手伝ったとか。既存の枠組みでは評価できない行動を自由に書いてもらうんです。その項目については、800人分くらいを全部ぼくが見ているんですよ。
佐宗 すごい。社員全員の分を山崎さんが一人で見ていくんですね。
山崎 はい、全部チェックするので大変ですが、これは意味があると思います。しかも、すべてに対して0から0.5点刻みで点数をつけるようにしていて、過去最高で5点を超えた人もいました。
あまり標準化しているわけではないですが、これまでの点数は記録されてみんなに公開されているので、過去のケースと紐づけながら点数をつけるようにしています。「この行動は過去にもあったから1点だな」とか「これはすごいチャレンジだし、インパクトがあるから、3点にしよう」とか、そんな具合です。
そして、1点ごとにボーナスを払う仕組みになっています。また、人事評価が終わったあとに、「全社貢献賞」としておもしろかったものを、全部ぼくがみんなに説明します。
会社って、お客さんに対して約束をしてアウトプットを出す装置であるのと同時に、一つのコミュニティなんだと思っています。設定された目標に対して及第点を取るのがうまい人もいれば、コミュニティづくりに貢献できる人がいてもいい。数字と価値観という相容れない2つの軸をちゃんと両方持っておくことが大事だなと感じていますね。ときどき、「全社貢献の評価だけ狙いすぎだろ」って思う人もいますが(笑)、それはそれでいいと思うんですよね。
佐宗 シンプルながらいかにも効果が出そうな仕組みですね。評価に関連して、それ以外に工夫されていることはありますか?
山崎 価値観に合った行動を促す意味では、プロモーション(昇進・昇格)の面でも工夫をしています。具体的には、プロモーションが発表されたときに、「なぜこの人が昇進・昇格するのか」の理由を必ず全社に向けてはっきり説明するようにして、本人にも抱負を語ってもらうようにしています。これを見ている人には「そうか、こういう人が昇進・昇格になるのか」と伝わる。これも大事なメッセージだと思っています。
株式会社BIOTOPE代表/チーフ・ストラテジック・デザイナー/多摩美術大学 特任准教授
東京大学法学部卒業、イリノイ工科大学デザイン研究科(Master of Design Methods)修了。P&Gマーケティング部で「ファブリーズ」「レノア」などのヒット商品を担当後、「ジレット」のブランドマネージャーを務める。その後、ソニーに入社。同クリエイティブセンターにて全社の新規事業創出プログラム立ち上げなどに携わる。ソニー退社後、戦略デザインファーム「BIOTOPE」を創業。山本山、ソニー、パナソニック、オムロン、NHKエデュケーショナル、クックパッド、NTTドコモ、東急電鉄、日本サッカー協会、KINTO、ALE、クロスフィールズ、白馬村など、バラエティ豊かな企業・組織のイノベーションおよびブランディングの支援を行うほか、各社の企業理念の策定および実装に向けたプロジェクトについても実績多数。著書に最新刊『理念経営2.0』のほか、ベストセラーとなった『直感と論理をつなぐ思考法』(いずれもダイヤモンド社)などがある。