『ウィニングカルチャー 勝ちぐせのある人と組織のつくり方』ではチームや企業の組織文化の変革方法について、まとめています。本書の取材で著者の中竹竜二さんがアドバイスをもらいに行ったのが、ほぼ日を経営する糸井重里さんでした。インタビューの前編・中編で糸井さんはほぼ日のモノの決め方や新オフィスに込めた思いについて教えてくれました(詳細は「糸井重里さん「ほぼ日の判断基準は平安時代の人でもよろこぶか」」、「糸井重里さん「“あんな働き方は格好いいな”がやがて組織文化になる」」)。後編で糸井さんは、組織文化を人体や生態系に似ていると語りました。(構成/新田匡央)

糸井重里さん「チャンスの生産力が、人がよろこぶ指標になる」中竹竜二さんと糸井重里さん(撮影:竹井俊晴)

中竹竜二さん(以下、中竹):インタビューの中編で糸井さんは、オフィスには「親しみ」のようなものが必要だとおっしゃいました。だからほぼ日の神田オフィスでは、所属意識のようなものを、生身の体に触れるものとしてロッカールームを用意された、と(詳細は、「糸井重里さん「“あんな働き方は格好いいな”がやがて組織文化になる」」)。

糸井重里さん(以下、糸井):組織文化というのは、もしかしたら生態系に似ているんじゃないですか。ピラミッドのような組織の形でいい考えが伝達していくわけではなくて、内臓からの信号を脳が受け止めたり、内臓同士が連絡しあったりしながら、親しさや信頼が広がっていく。

中竹:糸井さんのお話を聞いていると、自然の生態系を常に意識されているように感じます。一つの側面だけを見るのではなく、一つの現象にはいいことも悪いこともある。一人ひとりを見ていても、いいときと悪いときがある。計画通りいかないのが当たり前なのだから、とにかく全体を見ていきましょう。そんなとらえ方が、糸井さんの中にはあるように感じます。

糸井:それは「水槽」の理屈なんです。魚を飼っているときに、どんなに水槽に水をきれいにする薬を入れても、水質は改善しません。魚用の薬もいろいろあるんですが、魚を治そうとしても、無理なんです。そうではなくて、水槽全体の環境を改善していくと、魚が元気になっていくんです。

 その改善には、両極端のことがあると思います。水瓶の中に自然にたまる雨水が集まって、そこで金魚を飼っている人がいますよね。あれは、何も手を加えていません。つまり、自然に任せる形で改善しています。

 一方で、最高級の水槽に最高級のフィルターを買ってくる改善もあります。ぼくもあるとき、「魚を飼うことは水を飼うことだ」と考えるようになったんです。

 会社も同じです。人事の話が人事だけで解決することはほとんどありません。

 そもそも、組織は勝っているときはうまくいくんです。成果の恩恵やよろこびが広がっていますから。でも、負けているときには、勝っていたときに育った悪いものが噴出します。それはジャイアンツの元監督の藤田元司さんに教わりました。

中竹:わかりやすいですね。勝っているときは、悪いものは見えないですからね。

糸井:人が大勢集まって動く場所では、環境を俯瞰して見ていかないとわからないことがあって、それに興味を持ったので、こんなふうに考えるようになったのかもしれません。

中竹:水槽の「水」は、人間社会で言えば「空気」ですよね。