「チームワークあふれる社会を創る」を理念に掲げるサイボウズは、個々人の働き方から事業戦略に至るまで、すべてを理念に照らして判断していく「理念経営2.0」型の企業だ。同社代表取締役である青野慶久さんは、佐宗邦威さんの『理念経営2.0』を読み、「会社にとって理念というものがなぜ必要で、どうつくり、どう使えばいいのかをここまで整理した本はない」「自分に欠けていた視点を補えた。辞書のように繰り返し使いたい一冊」と絶賛している。書籍刊行をきっかけに、青野さんと佐宗さんによる対談が実現した(第2回/全4回 構成:フェリックス清香 撮影:疋田千里)。
ファーストペンギンと「強制しないこと」を大切にする
佐宗邦威(以下、佐宗) サイボウズさんには「100人いたら100通りの働き方」があり、覚えきれないぐらいたくさんのユニークな制度がありますよね。いろんな制度を同時多発的につくっていらっしゃる印象がありますが、どんなふうに個々の制度は生まれているのですか? 「これをやりたい」という言い出しっぺがいて、その人をどう支援しようかと考えて結果的に制度化されるということなんでしょうか?
青野慶久(以下、青野) はい、すべての制度はそういった経緯でできています。僕たちがつくりたい「情報共有された世界」では、みんなが同じ情報を知っています。個々人の都合って、ちゃんと発信してくれないかぎりわからないじゃないですか。
だから、それぞれの人が自立マインドをもって、何か意見があったらちゃんと言ってほしいし、それを組織の制度にどうやって反映させるかをみんなで考えていくような文化をつくりたかった。ですから、基本的に誰かが声を上げないかぎり、制度をつくったりもしないというスタンスでやってきました。
佐宗 ネットワーク化されて情報が共有されているうえで、意志を持って動く人がいることで、新しいものが自然に生まれてくるのですね。しかし、今のような企業文化ができるまでには困難もあったと思います。どのようにやってきたのですか?
青野 最初に「人事制度を多様にしよう」と言ったときなどは、みんな半信半疑でした。それはそうですよね、いままで猛烈な働きぶりを奨励してきた社長が、急にそんなことを言い出しても、だれも信じてくれません。みんなソワソワするだけでした。
でも「いや、みんなちょっと落ち着いて! 僕は本当に変えたいと思っているんです」と伝えると、勇気を持って要望を言ってきてくれるファーストペンギンみたいな人がいたんです。その人をまずは受け止めようと思いました。
最初は「残業したくない」という要望だったと思います。当時の僕としてはあり得ないことだったんですが、それでも一回はその要望を受け止めてみた。そこで、残業をするかしないかの選択肢を本人が持てるようにしてみたんです。とにかく一歩前進してみたわけですね。
すると、ファーストペンギンに続く人が出てきました。「短時間勤務がいい」とか「在宅勤務をしたい」といった要望がどんどん出てきて、一つひとつ相談しながら対応していくうちに、多くの人が希望を出してくれるような会社になっていったと思います。
佐宗 最初の段階で、社内からストップがかかったりはしなかったんでしょうか? たとえば、人事から「みんなが新しい制度を使って『残業したくない』と言い出したら困ります」みたいなことを言われたり。うまく走り出すために気をつけたことはありますか?
青野 おっしゃるとおり、最初は恐る恐る始めました。いま振り返ると、うまく走り出せたのは、スモールスタートだったからだと思います。「希望すれば残業しなくていい制度を導入しました」と伝えたとき、最初に手を上げてくれたのは3人だけだったんです。その3人でひとまず制度を動かしてみたら、いいところと悪いところが見えてきた。
そこで、この制度を改善したりしながら、今度は短時間勤務制を導入するという具合に、1つずつ積み上げながら変化してきた感じですね。よく「どうやったらサイボウズみたいになれますか?」と言われますが、自立マインドを育むのに、15年以上かかっているんですよね。
それからもう一つ重要なのは、強制しないことだと感じています。リモートワークも、やりたい人はやっていいけれど、やりたくなかったら毎日来てもいいよと伝えているんですね。強制しないことによって、精神面での安全性を維持しながら変わっていく。そうすると、嫌がっていた人もいつかチャレンジしようかなと思うはずです。そこが重要だなと思いますね。
サイボウズ株式会社 代表取締役社長
1971年生まれ。愛媛県今治市出身。大阪大学工学部情報システム工学科卒業後、松下電工(現 パナソニック)を経て、1997年8月愛媛県松山市でサイボウズを設立。2005年4月代表取締役社長に就任。2018年1月代表取締役社長 兼 チームワーク総研所長(現任)。社内のワークスタイル変革を推進し離職率を6分の1に低減するとともに、3児の父として3度の育児休暇を取得。著書に『チームのことだけ、考えた。』(ダイヤモンド社)、『ちょいデキ!』(文春新書)、『会社というモンスターが、僕たちを不幸にしているのかもしれない。』(PHP研究所)など。