まず、実際に想定されている介護期間の平均は、169.4カ月(14年1カ月)でした。先に10年は想定しておくべきであることを述べましたが、多くの人は、それ以上の期間を想定して準備しているのです。なんとなく、子育てと同じ程度の期間が想定されていることは興味深いですね。

 もちろん、実際にこれだけの期間がかかるかどうかは、それぞれに事情が異なるため、なんとも言えないところではあります。ただ、平均的には、それだけの期間の見積もりをしているという点に位は意味があります。

 客観的に考えると、毎月の実質的な費用(自己負担)となる平均7万~8万円が、169.4カ月間かかり続けることを想定するのが普通ということです。

 ここから介護のランニングコストは、合計で約1186万~1355万円となります。初期費用も考えれば、1266万~1445万円の費用です。

 かなりの大金ですが、しかもこれは平均であって、運が悪ければもっとかかることも考えておかなくてはなりません。

 さらにこの想定では、介護が必要になる人が1人という計算になっていることにも注意してください。両親同時に介護が必要になるケースも多数あり、その場合は、単純に2倍とはならないものの、2000万円以上の準備が必要になると考えられます。

 ピンピンコロリと、介護を必要とせずに亡くなる人(急死)は、全体の5%程度に過ぎません。基本的には、誰もが、何らかの介護を受けながら亡くなっていくと想定しておくべきでしょう。

 しかも、ここまでの話は、あくまでも介護にかかる費用に関することに限定されています。このほかにも家賃や住宅ローン、生活費や各種税金などのためのお金も必要になることを忘れないでください。長い闘病生活などがある場合もまた、想定しておくべき費用は大きくなります。

 ここで、日本の高齢者の貯蓄額は、世帯平均で1268万円です。この数字だけを見ると、意外と貯蓄があるように感じられるかもしれません。これだけの貯蓄があれば、年金と合わせれば、2000万円程度の介護費用はなんとかなりそうにも感じられます。

 しかしこの数字は、富裕層が押し上げているにすぎません。実際に、貯蓄額が1000万円以下の世帯は、全体の過半数(57.9%)になっています。生活費のことを考えれば、約6割の高齢者が、介護のための費用が準備できていないと結論づけることができるのです。

 ここまでの話を総括すると、

・親に2000万円を超える預貯金があって年金もしっかりもらえている
・両親が同時ではなく、どちらか一方の介護だけが必要

 という条件が成立するときだけ、ギリギリではあるものの、親の介護のために子どもがお金を持ち出す必要がない可能性もあります。

 ただ、この2つの条件が当てはまる人は少数というのが現実です。仮に、この2つの条件に当てはまる場合でも、生活レベルが高く、毎月の出費も平均以上ということであれば、安心はできません。

 親の介護費用は、親の年金や預貯金でやりくりするのが基本です。しかし現実には、親の介護のために子どもがお金を持ち出すというのは、程度問題ではあれ、まず避けられません。

書影『ビジネスケアラー 働きながら親の介護をする人たち』『ビジネスケアラー 働きながら親の介護をする人たち』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)
酒井穣 著

 そんなとき、自分が介護で仕事を辞めていたらどうなるでしょう。自分の収入が途絶えていたら、持ち出すお金もありません。そうなれば、親の介護は、介護のプロにお願いすることもできず、自分の手でやらなければならなくなるでしょう。

 それでも、なんとか自分の手で介護を乗り切れたとしましょう。しかし将来、いざ自分自身に介護が必要になった場合は、どうするのでしょう。誰かに介護をしてもらう必要が出てきたとき、自分のための貯蓄が不十分であれば、一体、誰に自分の介護をお願いするのでしょう。

 親の介護に対してお金を持ち出すためだけでなく、将来の自分自身に必要となる介護のお金のためにも、介護離職という選択肢は、非常に厳しい(とても贅沢な)ものになります。