ここまでの話を総括すると、

・親に2000万円を超える預貯金があって年金もしっかりもらえている
・両親が同時ではなく、どちらか一方の介護だけが必要

 という条件が成立するときだけ、ギリギリではあるものの、親の介護のために子どもがお金を持ち出す必要がない可能性もあります。

 ただ、この2つの条件が当てはまる人は少数というのが現実です。仮に、この2つの条件に当てはまる場合でも、生活レベルが高く、毎月の出費も平均以上ということであれば、安心はできません。

 親の介護費用は、親の年金や預貯金でやりくりするのが基本です。しかし現実には、親の介護のために子どもがお金を持ち出すというのは、程度問題ではあれ、まず避けられません。

書影『ビジネスケアラー 働きながら親の介護をする人たち』『ビジネスケアラー 働きながら親の介護をする人たち』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)
酒井穣 著

 そんなとき、自分が介護で仕事を辞めていたらどうなるでしょう。自分の収入が途絶えていたら、持ち出すお金もありません。そうなれば、親の介護は、介護のプロにお願いすることもできず、自分の手でやらなければならなくなるでしょう。

 それでも、なんとか自分の手で介護を乗り切れたとしましょう。しかし将来、いざ自分自身に介護が必要になった場合は、どうするのでしょう。誰かに介護をしてもらう必要が出てきたとき、自分のための貯蓄が不十分であれば、一体、誰に自分の介護をお願いするのでしょう。

 親の介護に対してお金を持ち出すためだけでなく、将来の自分自身に必要となる介護のお金のためにも、介護離職という選択肢は、非常に厳しい(とても贅沢な)ものになります。