ヤクザに囲まれる

片岡 それから少し座って気持ちを落ち着けて業務に戻ったんですけど、そのときに強く思ったのは「筋は通さなきゃいけない」ということでした。つまり、「並べ」という、筋の通らない、理不尽な要求をなすがままに受け容れてしまったことが、最後にはお客さんから殴られるという想像もつかない結果に繋がった。だから「これからは自分が正しいと思ったことは曲げないようにしよう」と誓いました。そういえば、以前に佐藤さんに「自分を信じろ」と言われたことがありましたね。

佐藤 ええ。それはとても重要なことです。

片岡 その後もいろいろな経験をしました。岡山駅の地下街に出る改札にいたときに、いかにもヤクザ風の人たちが切符も持たずに改札を通ろうとしてきたことがありました。もちろん私は止めましたが、そうしたら全部で7、8人くらいの「お客さん」に取り囲まれてしまった。彼らはみんなで一斉に改札口をガンガン蹴り出すんですよ。でも、その頃は私も少し心が強くなっていましたから、「こいつらは絶対に殴ってこないな」と思ったんです。ヤクザだから逆に絶対に殴ってこないと。

佐藤 ヤクザは素人相手には絶対に手を出しません。利権が絡からんでいたら別ですけれど、そうでなければ素人に手を出したら一発で逮捕になりますから。

片岡 私もそういうふうに考えました。駅員に対して、こんなに人目につくところでは絶対に殴らない。まして刺したりすることもないだろうと。だから堂々と止めたんです。それで「切符を買ったら入れますよ」と穏やかな言葉で対応をしていたら、いかにも偉そうな人が最後にやって来て「お前ら、何をやっとんのや」と一喝したんです。

 そこで私が「切符を買っていただけないんです」と説明したら、「おい、お前ら切符を買ってこい」と言ってくれたんです。切符があれば私もみなさんに通ってもらうことができます。切符を買ってきたヤクザの人たちが改札口に戻ってきたときは、私は一人一人に「ご乗車ありがとうございます」と頭を下げたんですが、「ああ、これか」と思いました。やはり筋を通せば、自然に道は開けると思ったんです。

佐藤 そこで曲げてしまう人もたくさんいますよね。