ビジネス環境や働き方が大きく変化する中、人と組織をめぐる課題は増えるばかりだ。近年、個人の学習・変化を促す「人材開発」とともに、「組織開発」というアプローチが話題になっている。入門書『いちばんやさしい「組織開発」のはじめ方』(中村和彦監修・解説、早瀬信、高橋妙子、瀬山暁夫著)は、近年注目のテーマだ。本記事では、これからの企業に不可欠な「人材開発」「組織開発」の第一人者であり、近刊『人材開発・組織開発コンサルティング 人と組織の課題解決入門』(ダイヤモンド社刊)の著者でもある立教大学経営学部の中原淳教授に話を聞いた。

【立教大学・中原淳教授インタビュー】「とりあえずやって!」では何も変わらない。傷んだ組織をケアするために必要なことリモートワークの推奨から一転、出社を要請する企業も増えている(Photo: Adobe Stock)

言葉になっていないものを言葉にすること

――はじめに、「人材開発」を研究してきた中原先生が、「組織開発」にも取り組むことになったきっかけを教えてください。

 人材開発の研究に20年以上取り組んできましたが、最初は「個人が学習して成果を出す」というところで研究のサイクルが回っていました。

 しかし、時代が変わっていくなかで2000年代を超えたあたりから「本当に個人が学んで行動が変わればいいのか?」ということを思いはじめました。もっとチームレベルで職場が変わる必要があるのではないか、と考えたのです。

 そこで今後は、組織レベルのことを考えなければいけないなと思い、組織開発研究の第一人者である南山大学の中村和彦先生に私淑し、先生が当時行っていた「組織開発ラボラトリー」で、毎年、NTL(National Training Laboratory)から訪れる外国人講師の方から、多くを学ぶ機会などをいただきました。

 学びはじめてすぐ気が付いたのは、「人材開発」と「組織開発」は同根だし、システム的にはほぼ同じなんだろうな、ということです。米国のプラグマティズムという思想のもとに生まれた、試みであると気づきました。

 個人が経験から学び、振り返りをして行動を変えると「人材開発」になるし、それが組織のことを対象にして内省し、組織を変えようとすると「組織開発」になるわけです。これは私と中村和彦教授の共著である『組織開発の探究 理論に学び、実践に活かす』(ダイヤモンド社刊)で書かせていただきました。

――これまでの企業では、「人材開発」と「組織開発」は別物という認識があったように思います。

 そうだと思います。

 ですが、企業からの相談で「人材開発」の依頼を受けてやってみても「組織開発」とは分けられないなという実感がありました。

「人材開発」がテーマだったものが組織の活性化施策に変わったり、「組織開発」を依頼されたはずが、いつの間にかマネジャー研修になっていたりするのです。

――そのような経験をもとに、『人材開発・組織開発コンサルティング 人と組織の「課題解決」入門』(ダイヤモンド社刊)を執筆された経緯を教えてください。

 私の仕事は、いまだ言葉になっていないものを言葉にすることであり、それを社会に届けることです。そこで書いたのが本書なのです。

「人材開発」「組織開発」のプロフェッショナルが、どのようにしてクライアントに関わり、課題解決支援していけばいいのかを、学術的な理論(科学知)と実践的な知識やスキル(臨床知)を含めて言葉にしたのです。