俺が紹介できるから、海外に行く?

 ホストクラブXへの来店が週3、4回になると、N以外のヘルプのホストとの関係も濃くなっていく。店舗からすると担当ホストが移籍する際、彼の太客を新店舗に持っていかれると困る。そのため、店ぐるみで客を囲う「店グル」を実施する。ハルさんは、その対象となった。複数のホストと顔見知りとなり、自分の世界がホストクラブだけとなる。

 それでも、所詮、お金の付き合いが主だった。今年3月、Nから突然、「売掛金が40万円になっている」と聞かされた。彼女は毎月、清算しているつもりだったから困惑した。とある女性支援団体に助けを求めて動いてもらうと、毎日欠かさず電話をくれていたNと音信不通になった。

 ハルさんは落ち込み、一週間ほどほとんどご飯を食べられなくなる。細身なのにさらに5キロも痩せる苦しみを味わったが、足を運ぶ先はホストクラブしかなかった。一時は売掛なしの店に通っていたが、9月からはホストクラブYに行くようになる。そこで「聞き上手で話し上手」なホストAに惹かれた。前回の失敗から、売掛は避けたかったが、Aは「一万円だけでいいから」と少額から背負わせた。

 9月分、約30万円は同月に完済できたが、その後の金額は把握できなくなった。

 ホストクラブは通常、明細が書いてなく総額のみを記した青い伝票、通常「青伝」を女性に渡す。しかし、店舗Yは青伝すら寄こさない。ハルさんの支払額は担当Aの言いなりだ。

「愛情なんだと錯覚し、沼った」19歳で枕営業を仕掛けられた私が「ホストの太客に“育て”られるまで」ハルさんが2番目に沼ったホストA (ホストを紹介するウェブサイト/編集部作成)

 次第に「売掛が溜まっている」と言われるようになり、「俺が紹介できるから、海外に行く?」と、海外への出稼ぎ風俗も勧められた。

 今月に入ると「売掛160万円を払え」と執拗な取り立てが始まった。朝昼晩とひっきりなしに電話がかかってくる。出ないと、呼び出しコールは長時間に及んだ。

 一度、街なかで偶然に遠方から目撃された。すると、Aは走ってやってきた。ハルさんはタクシーに乗ったが、それでも追跡してきた。

 10月に入り、生活再建に向けて動き出したくなったハルさんは、青母連に駆け込んだ。11月中旬、売掛金に関する交渉を青母連が手配した弁護士に依頼した。

Aとのトラブルを経験し、悪質ホスト問題のニュースに接し、青母連の活動を知るようになり、ハルさんの心はホストクラブから完全に離れた。

「将来は結婚もしたいし、女の子として恋愛感情は大事にしたい。それなのに、枕営業までしてホストは女性を取り込もうとする。やり方がすごく悪質です」

「売掛にしても、少額から始めて、次第に払えないお金を背負わせる手口は汚すぎる。他の女性のためにも、売掛は禁止して欲しい」

そして、取材の最後につぎのような決意を語った。

「稼いだお金はホストに貢いで無駄にすることなく、これからは自分のために使いたい」