「愛情なんだと錯覚し、沼った」19歳で枕営業を仕掛けられた私が「ホストの太客に“育て”られるまで」ホストに「沼る」までの過程を詳細に語ってくれたハルさん(撮影:富岡悠希)

「恋愛感情を利用し、払えないお金を背負わせる手口は汚すぎる。他の女性のためにも、売掛(ツケ)は禁止して欲しい」。歌舞伎町のホストに売掛160万円を抱えて苦しむ女性(20)は、こう言い切った。20歳未満での店内飲酒やホテルで一夜を過ごすなどして、ホストから太客に「育て」られる。かたや売掛金が溜まるとひっきりなしに電話がかかり、街中で追いかけ回される。2年間に渡る彼女の経験は、国会も含めて対策に動き出している「悪質ホスト問題」の核心要素が詰まっている。(ジャーナリスト 富岡悠希)

「今から行ってくるね~」
売春前にホストに送ったLINE

 ロングヘアと長いネイルが印象的なハルさん(仮称)とは、同問題での被害者支援にあたる「青少年を守る父母の連絡協議会」(略称・青母連/せいぼれん)の紹介で知り合った。青母連を抱える公益社団法人「日本駆け込み寺」の新宿・歌舞伎町のオフィスで話を聞いた。

 取材中、終始落ち着いた様子で受け答えをしていたが、彼女は精神障害者手帳2級を所持している。2級は、「日常生活が著しい制限を受けるか、又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度」と定められている。

 両親が育児放棄したハルさんは、乳児院を経て児童養護施設で育った。常に「誰かに愛されたい」との渇望があった。その後、児童自立支援施設や自立援助ホームで過ごしたが、寂しさが埋まることはなかった。

 2022年夏、カリスマホストで実業家とされる男性に一目会いたくなり、歌舞伎町に足を踏み入れた。その前年から横浜でホストクラブに通い始め、心の空白を一時だけでも埋めるようになっていた。ハマで顔を出していた店には、売掛のシステムはなかった。

「日本一の歓楽街」にたどり着くと、キャッチの男に声を掛けられた。「客引きは違法です」との音声案内が随時流れているが、残念ながらそこらじゅうに、この手の男女はいる。その中でも、ホストクラブに案内する客引きは「外販(がい・はん)」「外販さん」と呼ばれる。

 外販の案内で、ハルさんは、歌舞伎町のホストクラブに出入りするようになった。初入店だと、女性の支払いは数千円で済む。時には外販が費用の半分までを負担する。それでも外販には店から案内料が出るから、十分に採算が取れる。彼女の支払いは安い時で500円、どんなに高くても5千円で済んだ。連夜、2~3軒をはしごした。

 18, 19歳の無職の女性にとって、数万円の支払いすら本来は難しい。稼ぎは、男性から声を掛けられるのを待つ、「立ちんぼ」で賄った。同町の大久保公園には同業の女性が多数いる。寝泊りは、ネットカフェでしのいだ。

「愛情なんだと錯覚し、沼った」19歳で枕営業を仕掛けられた私が「ホストの太客に“育て”られるまで」ハルさんが最初に沼ったホストN (ホストを紹介するウェブサイト/編集部作成)

 二か月ほど、そんな生活を繰り返していると、ホストクラブXのNと出会った。「彼とは笑いのツボが同じで、一緒にいる間中、ずっと笑って過ごせた」。一目惚れに近かった。

 彼に好意を持ってしまうと、立ちんぼが精神的につらくなる。もともとメンタルが不調なハルさんに、自殺衝動が高まり、抑えきれなくなった。

「最期に声を聞きたくて……」

 ある時、泣きながら出先から電話をすると、Nはすぐに会いに来てくれた。慰められたハルさんは、「これが愛情なんだと錯覚し、沼った」。その流れで、彼とホテルに向かった。

 ホストが女性を太客にするためには、「育て」のテクニックを駆使する。Nは店が終わった後、アフターのご飯に行っては、食費を持った。店休日にはデートに誘い、時には肉体関係を結んだ。ぬいぐるみをプレゼントされたこともある。ハルさん自身、Nとの時間は「育て期間」だと分かっていたが、それでも嬉しかった。

 そのうち、お店が空いている時やイベント開催時に店に呼ばれるようになる。「片想いだったし、振り向いて欲しかった」ことから、いつでも応じた。

 この頃は、立ちんぼで知り合った男性とLINEで連絡を取り合う個人売春と、デリヘルで稼ぐようになっていた。そのほとんどの金額、月約50万円をNに使った。

 ハルさんはお客が付くと、「今から行ってくるね~」とNにメッセージを送った。終わると、お客からもらった現金の写真を付けて再連絡した。

 Nから「もっと稼いでこい」などと強要されることはなかったというが、「俺が見ているから頑張ってね」とは言われていた。Nはハルさんが店で使っているお金が、違法な売春で稼いだものであること、そしてその金額の詳細を把握していた。