そもそも睡眠に限らず何かを改善したいとき、まず必要になることは「正確な現状把握」である。それに基づいて正しい課題を認識することで、適切な改善策が浮かび上がってくる。

例えば、ダイエットに話を置き換えた場合も同様だ。現状の体重を測って、理想の体重を設定し、それに向けて食事や運動習慣を見直す人がほとんどだろう。ところが睡眠においては、現状の睡眠状態を正確に把握することはほとんど行われず、はやりの改善策に飛びついて「なんとなく」睡眠改善を行う人が多いのではないだろうか。

その要因の1つに、手軽かつ正確な睡眠計測の方法が存在していないことが挙げられる。ダイエットで言うところの「体重計」が存在していないのだ。現状、正確に睡眠状態を把握するためには医療機関で頭に大量の機器を装着して脳波を測定する必要があり、「手軽さ」とはあまりにもかけ離れている。

そのような状況下において、手軽かつ正確な睡眠状態の可視化を実現させ、正しいデータに基づいた効果的な睡眠改善策を提供したいという想いが、SOXAI Ringの開発をスタートさせた。

「指」には、正確なデータ測定に必要な条件が揃っている

具体的にSOXAI Ringの開発を始めたきっかけは、SOXAI創業者兼代表取締役社長である渡邉の実体験に基づく。

渡邉は前職でスマートウォッチの研究開発に携わっていたが、スマートウォッチ等のウェアラブルデバイスを用いてのバイタルデータ取得に限界を感じていた。「連続的かつ正確なデータ取得」および「どんなシーンでも違和感なく自然と着用可能」という2つの課題を解決することができなかったためである。

そこで、当時の渡邉は国内外の関連論文を1000本以上読み漁り、日本のみならず世界中の大学教授やスタートアップの研究者にひたすらコンタクトを試みて、時には現地に足を運び技術的なディスカッションをして、1つの結論に達する。

 

指でのデータ測定、すなわち「指輪型IoTデバイス(スマートリング)」であれば、より自然にかつ連続的に正確なデータ取得が可能であると渡邉は確信した。

スマートウォッチと比較して小型なスマートリングであれば24時間装着し続けるハードルが低く、さらに測定精度という観点においては、手首よりも指の方が優れている点が多く存在している。具体的には、下記の点などが挙げられる。

  • メラニンなどの測定を妨害するものがない
  • 皮膚表面近くに多くの毛細血管と細動脈が存在する
  • 計測部の体組織が薄い
  • 肌密着性が高い

実現困難かと思われた超小型の基板設計

スマートリングが健康管理用ウェアラブルデバイスの最適解だと確信してはいたが、スマートリング市場は黎明期であり、その市場規模の小ささゆえに大企業として事業に取り組むことは不可能に近かった。課題を解決し得るソリューションが目の前にあるにも関わらず、取り組むことができないというジレンマにもがき苦しむ日々が続いた。