「ネットスーパーは、大雑把に言えば物理的な店舗でのみ販売されていたものをネットでも売れるようにする仕組みと捉えることができます。これをデータ活用に置き換えると、社内のみでデータが活用されている状態は、いわば物理的なスーパーだけにとどまっているような状況です。そこでAnonifyを活用すると、そのデータを社外にも売れるようになります」(福島氏)

中村氏によると現在はトライアルパートナーとして共同研究フェーズを終えて、本番業務への移行を進めている企業が数社存在するとのこと。プライバシーは一般的に“守り”の印象をもたれることも多いが、Anonifyの取引を始めている企業は「新たなビジネスの実現に向けた“攻め”の投資」と考えているという。

プライバシーテック事業のバックグラウンドと概要
PrivacyTech事業はLayerX内に創業初期から存在していたR&Dチームの研究を活用して事業化したもの。Gunosy出身の中村氏を始めデータ分析や機械学習の実務経験のあるメンバーが複数人在籍している

海外で加速するPrivacyTech、スタートアップも存在感

データの利活用や個人情報保護に関する規制の整備が加速していく中で、PrivacyTechは今後さらなる発展が期待される分野だ。

すでにグローバルでは先端技術が社会に実装され始めている。たとえば上述した差分プライバシーは米国の国勢調査やGAFAなどの大手IT企業で実用化が進んでおり、プライバシー保護技術の新たなスタンダードになりつつある。

近年は技術力を強みとしたPrivacyTechスタートアップの存在感も増してきた。差分プライバシーの技術を主に金融領域の顧客向けに提供しているLeapYear(累計で5300万ドル以上を調達)、医療特化で合成データ技術を展開しているMDClone(累計で1億ドル以上を調達)など、大型の調達をするプレーヤーも目立つようになってきた。

日本でも秘密計算エンジンを展開する名古屋大発のAcompanyなど関連するスタートアップが生まれているが、まだまだその数は少ない状況だ。

LayerX自体はもともとブロックチェーン事業を軸に始まった会社ではあるが、同事業を通じて発見した顧客の課題を解決するべく、現在は「ブロックチェーンの会社」から「SaaS、Fintech、PrivacyTechの会社」へと進化を遂げている。

その中でもプライバシーテック事業は「企業間や産業間を超えて情報を流通、共有したい」というニーズに応えるために発足。最先端のプライバシー技術がカギを握ると考え、もともと創業初期から中村氏らがR&Dチームとして研究してきた技術を本格的に事業化するべく、この1年ほどは水面下で準備を進めてきた。

「時間軸としては数年かけて将来の事業の柱に育てていきたい。現時点ではタイミング的に若干早いことは理解しているのですが、一方で米国やイスラエルの会社の動きを見ていると、必ずこの領域は数年後に大きなテーマになると考えています。技術力が軸になる事業なので、その観点では今から始めないと間に合わないとも思うんです」