「世の中のオンラインゲームは、どうしても基本的には強者のための場所。一人の幸せな人が存在すると、百人千人の不幸な人が生まれているような面がある」

勝てば楽しいが、負けると悔しい。勝ったり負けたりなら続けられるが、負け続けると止めたくなる。対人対戦は魅力的だが、このリスクは必ずつきまとうものだと思われてきた。

もちろん、既存のFPS/TPSメーカーもこの問題に目を背けていたわけではない。勝敗数などからソフトがプレーヤーの腕前を評価し、同程度の腕前のプレーヤー同士がマッチングするような仕組みを採用したことで、大差で勝敗がつくようなことはかなり減ったことは事実だ。しかし任天堂がスプラトゥーンで提案してきた新システムは、これまでのFPS/TPSの常識を覆すようなものだった。

自分と組む仲間も、敵対する4人も、全員がランダム選出。しかも同程度のウデマエ(ゲーム内での呼称)同士がマッチングするようになっている
自分と組む仲間も、敵対する4人も、全員がランダム選出。しかも同程度のウデマエ(ゲーム内での呼称)同士がマッチングするようになっている

勝てば「楽しい」、だが負けても「そんなに悔しくない」という敗者へのメンタルケア

もっとも革新的だったのは、多くのFPS/TPSが敵プレーヤーを倒して生き残ることが目的だったのに対して、スプラトゥーンでは敵兵の撃破数ではなく「地面や壁を塗った面積」で勝敗が決まること。極論から言えば、対戦相手を一度も攻撃せずに自分と仲間が攻撃を受けまくっていても、塗った面積さえ多ければ勝てる。

この斬新なルールならば、チーム内に1人でも強いプレーヤーがいれば、残りの3人は塗る面積を増やすことに集中してもいいし、そんな味方を狙いに来る敵チームを狙撃する……なんていう作戦もあり得る。

FPS/TPSはその性質上、家庭用ゲーム機ではアナログスティック、PC版ではマウスを使って敵を狙うことを指す「AIM(エイム)」の熟練度が強さに直結している。しかし、スプラトゥーンではAIMが苦手な人でもそこそこ楽しめる上、敵に撃たれて再スタートしたとしても「今度は、敵のいないところを塗りつぶそう」と、対人戦闘を避けながら勝利に貢献することもできる。

倒されても、わずか4秒で再スタート。それどころか「どんなブキに撃たれた?」などの画面表示を見ているうちに再スタートするため、体感は1秒程度
倒されても、わずか4秒で再スタート。それどころか「どんなブキに撃たれた?」などの画面表示を見ているうちに再スタートするため、体感は1秒程度

これまでは熟練者に瞬殺されていたFPS/TPS初心者でも、スプラトゥーンであれば「自分なりの活躍の場」を見つけられるという魅力は大きかった。

また、4対4というチーム戦にしたのも素晴らしい判断だと思う。FPS/TPSに限らず、対人対戦のゲームは負けた時の精神的ストレスをどう軽減するかが大切だ。スプラトゥーンは4人でのチーム戦なので、負けたとしても自分1人の責任とは考えにくい。それどころか強い人と組めば、自分がぼんやりしていても勝利しているというケースもあるだろう。

僅差での勝利を勝ち取ったところ。自分は活躍した記憶はないので、きっと上手い仲間に恵まれたのだろう
僅差での勝利を勝ち取ったところ。自分は活躍した記憶はないので、きっと上手い仲間に恵まれたのだろう

基本的にはチームメイトも敵チームもランダムで選出されるため、勝とうが負けようが一期一会なので仲間に対しての後腐れがない。対戦ゲームである以上、敗者が存在するのは避けようのない事実だが、敗者のメンタルダメージを少しでも軽減したいと考え抜いた上でのシステムというのが私の感想だ。