「自分の腕前に自信がないから、仲間に迷惑をかけるのでは?」という不安を、できるだけ排除するために生まれたゲームデザイン。それがスプラトゥーンだと言える。

ストリート系デザインとサウンドでFPS/TPSの“血生臭さ”から脱却

任天堂の革新的なアレンジは、他にもある。それはデザイン面だ。多くのFPS/TPSは実在、または近未来の武器を使って敵兵士を狙い撃っていたのに対して、『スプラトゥーン』では水鉄砲や傘、文房具などを模した「ブキ」(ゲーム内での呼称)を使い、射出するのも絵の具のような、カラフルな液体。

撃ち合うキャラクターはイカの擬人化(インクリング)で、キャラクターの造形や服装もストリートファッションをベースとした、イマドキのデザイン。こうしたデザインのファンも多く、インクが吹き付けられたような形状や、ゲーム内に登場するアイコンなどは、公式グッズが発売されている。任天堂公認グッズのECサイト「EDITMODE」では、『スプラトゥーン』関連グッズだけで60種類もの商品が並ぶ。

スプラトゥーンは独特なBGMのファンも多く、公式ライブはいつも超満員。任天堂はそのほかにも対戦大会「スプラトゥーン甲子園」や、コスプレやダンスコンテスト「イカス文化祭」を開催するなど、ユーザー向けの無料イベントを次々と開催しているのも、お金に余裕がない低年齢層のファンでも熱気に触れる機会を作っているところも評価したい。最新イベントは、来る10月8~9日の土日に東京ビッグサイトで開催される無料イベント「Nintendo Live 2022」。新型コロナウイルス対策の観点から入場者は事前応募者の中から抽選となっているが、参加費は無料だ。

グラフィック面やデザイン、音楽など、それぞれ「尖った」ものばかりを採用しながらも、それらの温度感を整え、どれもがこのゲーム「らしい」と思わせるレベルにしたスタッフの才能は相当なものと言える。

2019年末に開催された『スプラトゥーン』ライブの模様は、YouTubeの任天堂公式チャンネルで無償公開されている

こうして、任天堂が誇るデザイン力とサウンドセンスにより、FPS/TPSに染み付いていた血生臭さは、完全に払拭されたと言っても過言ではない。同じ「銃を撃つ」ルールのゲームであっても、ここまで別のゲームとして見せる任天堂の手法には脱帽する。

余談だが、2015年に発売されたスプラトゥーンは、2001年に発売された『ピクミン』以来、久々の任天堂オリジナルIPだった。『大乱闘スマッシュブラザーズ』の登場キャラを見ればわかるが、マリオやカービィなどの強いIPをたくさん擁している任天堂が、新しく、しかも強い(ファンの熱中度が高い)IPを手に入れたのだ。