WeWorkは不動産を借り上げてコワーキングスペースに改装し、会員に貸し出すモデルでその数を大きく拡大してきた。広いスペースでデザインされたオフィスを自由に使い、時には用意されたコーヒー、ビールを飲みながら語り、イベントなどを通じて他の会員と知り合う──WeWorkにさまざまな交流の仕掛けが準備されているのは日本でも知られているとおりだ。ニューマン氏のカリスマ性もあり、続々と集まる社員。そして資金調達とともに上昇する時価総額。

だが次第にそのカリスマのベールに包まれたニューマン氏の“真の姿”が明らかになっていく。社員総出で行う研修と会員交流をかねたイベント「WeWorkサマーキャンプ」で同氏は乱痴気騒ぎをする。のちにこのイベントはBUSINESS INSIDERなどで「酒やセックス、ドラッグ三昧だった」と報じられることになる。

60億円超のプライベートジェットを購入し、メディアのインタビューでは、「世界の大統領になる」とまで豪語するニューマン氏。WeWorkの元弁護士ドン・ルイス氏は映画の中で、同じ価値観を共有して働く企業文化や社員の素晴らしさを振り返る一方で、ニューマン氏を「スピリチュアルな宗教家」と例え、社内イベントの熱狂ぶりを「カルトかと疑われるほどだった」と振り返る。

カリスマとして崇められるニューマン氏だったが、ジャーナリストたちはWeWorkの全盛期の時点ですでに“うさんくささ”を感じ取っていたようだ。映画の中でも、米ボストンの老舗雑誌The Atlanticの名物記者、デレク・トンプソン氏がWeWorkを「なぜビルを借り上げ小分けしようと考えたのか。世界一つまらないビジネスモデルです」と評し、当時を振り返る。BUSINESS INSIDERの取材に応じた元従業員は、ニューマン氏は手元に1本140ドル(約1万5000円)のテキーラがなければ「ブチ切れる」と話していた。

次第にひずみの大きくなるWeWork。業績低迷で従業員を解雇するに至るも、ビジョン・ファンド、そしてソフトバンクグループによる大型出資を受け、急速なグローバル展開を進めることになる。評価額は470億ドル(約5兆円)にまで膨らみ、2019年8月にはIPOを申請。だが有価証券届出書(S-1)から、資金流出や解約率などの問題が山積したビジネスモデルが露呈。ニューマン氏は退任へ追い込まれたのだった。

2019年以降、ソフトバンクグループ主導で経営陣を入れ替え、再建を進めてきたWeWork。同社は特別買収目的会社(SPAC)を通じて2021年後半に上場すると発表している。一方、ニューマン氏の足跡はハリウッド俳優のジャレッド・レト氏とアン・ハサウェイ氏の主演でテレビシリーズ化することも決まっている。創業者退任後の成長には期待が集まるWeWorkだが、同時に当面はその呪縛から逃れることも難しそうだ。