これは、アーティストのキャリアや、その作品がどんな人に買われたか、どんな展覧会に展示されたかによって作品が持つ意義や文脈が深まっていくことに由来します。ところが、世界中のアート作品に対してこうした来歴情報を正確に管理するのは困難を極めます。

また、アート作品は本物か偽物かによって大きく価値に差が出てしまうため、鑑定によって発行される「作品証明書」を通じて、本物であることを証明する必要があります。

このように、アート作品が本物かどうかを証明するプロセスを「真贋管理」と呼びます。真贋管理においては、本物と複製物を区別する必要があるため、アート作品の所有権管理は厳密になされる必要があります。

従来この所有権管理や真贋管理においては、オークションハウスや鑑定士といった第三者による信頼の付与がなされてきました。ところが、鑑定書自体の偽造も行われるためネット上で自動化もできず、アート作品の多くが流通しづらいという問題があります。

オンラインアートギャラリーのSaatchi Artによると、少なくとも現在世界のアート市場で起きている不正行為による被害額は、年間60億ドルにのぼり、その内の80%が偽造品によるものといわれています。

チューブ絵の具が印象派を生み出したようにNFT技術がデジタルアートを生み出す

アート管理へのブロックチェーン活用に拍車をかけているのがNFTです。NFTはデジタル空間における鑑定書そのものであり、真贋つまりオリジナルか否かをひと目で判別することのできる目印だからです。

アートの分野でブロックチェーンとNFTが果たしている役割は、管理のみにとどまりません。これらの技術を用いることで、デジタル空間上の表現のみをオークションなどで販売することができるようになったことは、これからのアート表現を変革する可能性があります。

ちょうどチューブ絵の具が印象派を生み出し、印刷技術の大衆化がアンディ・ウォーホルのモダンアートを生み出したように、NFT技術がデジタル空間を舞台にしたアート作品を生み出そうとしています。

例えば、アーティストのBeepleが作成し、オークションハウス・クリスティーズで競売にかけられ75億円で落札されたアート作品『Everydays - The First5,000Days』などは、現実世界に出力されていないデジタル・ネイティブなアート作品です。

その他にもスマートコントラクトを利用して、連鎖的にNFTを自動生成していくNFT作品なども生まれています。