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アベノミクスの脱デフレ戦略が、政治の勇み足で流通業界を戦々恐々とさせている。
発端はローソンが2月に発表した年収の引き上げだ。安倍晋三首相の経済界への賃金引き上げ要請を受け、政府の産業競争力会議のメンバーでもあるローソンの新浪剛史社長は、20代後半から40代の正社員約3300人の賞与を増やし、年収を平均3%引き上げた。
すると翌3月には、セブン&アイ・ホールディングスが、グループ54社の正社員約5万3500人の賃金のベースアップ(ベア)を決定。例えば、イトーヨーカ堂では正社員平均の月額賃金が前年比で1.5%増となった。
コンビニ大手2社の賃上げで、割を食ったのはファミリーマート。
同社は昨年、ベアを実施し、定期昇給や賞与を合わせて年収を3.5%引き上げていたため、今年度の賃金は、労使交渉により1.5%の定期昇給で妥結していた。
ところが、甘利明経済再生担当相が「ローソン、セブン-イレブン、次はファミマと期待している」と、個別企業を名指しする異例の発言を行ったことで、突然、対応を迫られた。結局、「甘利発言」の2日後には賞与の増額を発表。定期昇給と合わせて、政府の物価引き上げ目標である2%を上回る2.2%の賃金アップとなった。
一連の賃上げについて、業界内では「ローソンのスタンドプレーだ」(コンビニ関係者)との不満の声も上がるが、結果的にコンビニ上位3社がそろって賃上げに踏み切ったことで、業界内で注目されているのはイオンの動向だ。
ミニストップを抱えるイオンは、小売業界では国内最大手。業績も好調で、2012年2月期の営業利益は過去最高となり、13年2月期も過去最高を更新する見込みだ。
「政府の賃上げ方針に対応するかどうかはノーコメント」(イオン広報部)と口を閉ざすが、社内外からのプレッシャーは高まるばかり。半面、個別企業の経営に政治が口を挟むのは掟破りなだけに、アベノミクスの真価が問われる。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 松本裕樹)