「まさに“交通事故”です。朝の9時ごろ、社内のメンバーや顧問弁護士から、『ロゴが被っている』とSlackで連絡がありました。記事のリンクも送られてきていたので内容を見てみると、驚くほどロゴが被っていたんです」(Minitt代表取締役・小林佑次氏)

「Metaのロゴを見た時に思わず笑ってしまった」と話す小林氏だが、一方で「今後、Minittのロゴを見た顧客はMetaを想起してしまう」と課題感も口にする。ブランド認知の観点では今の状態を続けていくことに、会社としてのメリットはあまりない。そのため同社では、ロゴの変更も含めて今後の対応についての協議を進めている最中だという。

商標権を取得すればもらい事故は起きにくい

Minittに限らず、日本のどのスタートアップにも海外の巨大IT企業とロゴが類似してしまうリスクは常に存在する。ではロゴが被ってしまった場合、どのような対策が必要なのだろうか。弁理士で商標登録サービス「Cotobox」を展開するCotobox代表取締役社長の五味和泰氏は「商標権を取得していればもらい事故にはなりにくい」と説明する。

「資金調達し、上場を目指しているようなスタートアップであれば、ブランドを守るために今すぐにロゴやサービス名の商標登録をすることが重要です。5万円程度で5年間の権利が得られます(編集部注:出願手数料は1万2000円、5年間の登録料は1万6400円。これに加えて弁理士などの費用がかかる)。安価なウェブサービスでも最低限の権利は保証されます」(五味氏)

商標権がなければ、ロゴ変更を余儀なくされる可能性は高い。だが一方で、商標権さえ得ていれば有利な立場で交渉を進められる、と五味氏は話す。

「スタートアップ側に商標権があればロゴを“売らない”と言う交渉方法を取ることもできます。大手側からの『ロゴがほしいから権利を手放してほしい』といった提案を鵜呑みにせず、より複合的な合意での着地も期待できるでしょう」(五味氏)

年間1億円の商標使用料で交渉が決着した「iPhone」と「アイホン」

「複合的な合意」を説明する上で、五味氏はAppleと日本のインターホン専門の電気機器メーカー、アイホンとのあいだで発生した権利交渉を例にあげた。

AppleはスマートフォンのiPhoneを日本で発売する際、「iPhone」の商標登録を申請した。ただ、すでに商標登録されていた「アイホン」と酷似していたため「iPhone」の商標登録は取り下げられた。両社は交渉の末、Appleがアイホンに「iPhone」の商標使用料を支払うことで合意した。Appleは年間1億円以上のロイヤリティを支払っているとみられる。合意にはiPhoneのカタカナ表記を「アイフォーン」とすることも含まれる。