2019年12月にクラウド会計ソフトのfreeeが新規上場した際、グローバルオファリング(株式などの発行者が、日本国内市場に加えて海外市場でも募集や売出し行い資金調達すること)を実施した結果、初日の時価総額は1200億円を超えた。これを契機に、マーケットの獲得まで一定の期間を要するSaaSビジネスへの理解が進み、PER(株価収益率)ではなく、PSR(株価売上高倍率)で評価することが国内でも一般化しつつある。投資家の期待が集まる中、SaaS領域では有望なサービスが続々と生まれ、急成長を遂げており、海外からの注目度も高い。

SaaS先進国の米国では、すでに大型のM&Aを繰り返し、コングロマリット化したSaaS企業も出てきている。2007年、MR(製薬企業の営業担当者)向けのCRMツールからスタートした米Veevaは、M&Aで隣接領域のSaaSを次々と取得し、製薬業界の開発から販売までをカバーするバーティカルSaaS企業へと発展。時価総額は約4兆5000億円に達している(12月20日時点)。

日本でも今後はSaaS企業の合従連衡が進んでいくだろう。クラウド会計ソフトのマネーフォワードは2021年11月、社内向けAIチャットボットを提供するHiTTOを20億円で買収することを発表した。クラウド人事労務ソフトのSmartHRも2021年には156億円を調達し、ユニコーンの仲間入りを果たしている。グローバルな陣取り合戦が激化していく中、日本企業の戦い方にも大きな変化が求められている。

オープンイノベーションの活性化をもたらす海外機関投資家の存在

PaidyやPringのM&Aほど世間を騒がせたわけではないが、筆者が今年注目したスタートアップファイナンスの動きとして、9月にアルバイト仲介アプリのタイミーが発表したシリーズDの調達が挙げられる。香港の機関投資家3社(Keyrock Capital Management、Kadensa Capital、Seiga Asset Management)を中心に53億円を調達した。

タイミーの事例がエポックメイキングだったのは、「事業会社からの調達=ラストラウンド」という日本のスタートアップ界の常識を覆したことだ。同社はシリーズB、Cで物流施設大手のプロロジスから出資を受け、物流現場でのサービス利用が事業成長を支えてきた。事業会社を中心としたラウンドではバリュエーションが上がりやすいこともあり、以降、VCからの出資を受けづらくなるのがこれまでのパターンだったが、ここでも海外の投資家のアクションにより風穴が開けられたといえる。起業家側、事業会社側の双方にとって、出資検討の際の大きな懸念となっていた次回ラウンドの問題に光が見えたことで、今後、オープンイノベーションの活性化につながることが期待される。