IT業界と非IT業界の境界線がなくなりつつある今、スタートアップの「出口戦略」はどう変化するのか。本稿はM&Aマッチングプラットフォームを運営するスタートアップ・M&Aクラウド代表取締役CEOである及川厚博氏による考察だ。M&Aクラウドは10月に10億円の資金調達を実施しており、その事業展開にも期待がかかる。及川氏にM&Aを軸にした2021年の振り返り、そして2022年以降のトレンドを論じてもらう。
海外テック企業がけん引役となり、大型M&Aが起きていく2022年
2021年9月、米決済サービス大手のPayPalが日本で後払い決済サービス「Paidy」を運営するPaidyの買収を発表。買収額は国内スタートアップのM&Aでは過去最大級となる3000億円と報じられた。7月には決済アプリ運営のpringも米Googleへの売却を発表、こちらは200億円程度と見られている。2021年は、海外テック企業の日本のスタートアップへの関心の高さが改めて印象付けられた年となった。
日本のスタートアップの出口戦略はIPOに偏っていると長年指摘されてきた。ここに来て、海外テックのパワーによる大型M&Aが相次ぎ、今後のM&Aイグジット増加の呼び水となることが期待される。
M&Aイグジットの増加は、スタートアップのエコシステム全体から見て必然でもある。スタートアップ情報プラットフォーム「INITIAL」によると、2021年上半期のスタートアップ資金調達額は3245億円で、半期では過去最高を記録。2017年1年間の調達額に迫る規模となった。一方で、国内のIPO企業数は、ここ数年100社前後で頭打ちが続いている。監査法人のキャパシティの限界から、上場審査に必要な監査証明の引き受け先が見つからない、いわゆる「監査難民」問題もあり、今後もIPO社数が大きく伸びることは考えにくい。となれば、投資家にリターンをもたらす手段として、IPOに比肩するレベルの大型M&Aが増えない限り、エコシステムが機能しなくなってしまう。
こうした状況を背景に、2022年も海外テックがけん引役となり、大型M&Aが起きていくと筆者は見ている。特にSaaS運営企業には、海外からも熱い視線が注がれている。