「生きやすくなる方法を教えましょう」
そう語るのは、これまでネット上で若者を中心に1万人以上の悩みを解決してきた精神科医・いっちー氏だ。「モヤモヤがなくなった」「イライラの対処法がわかった」など、感情のコントロール方法をまとめた『頭んなか「メンヘラなとき」があります。』では、どうすればめんどくさい自分を変えられるかを詳しく説明している。この記事では、本書より一部を抜粋・編集し、考え方次第でラクになれる方法を解説する。(構成/種岡 健)

精神科医が教える「生きやすくなる方法」ベスト1Photo: Adobe Stock

「目隠し」を外す

 最初の「ハラ落ち」のためのステップを説明しましょう。
「そもそもなんで生きにくいんだっけ?」と振り返りをおこなうのが、ここでの目的です。
 ゆるいストレッチ感覚でやってみましょう。

 まず、今のあなたは「目隠しをしている状態」ということを自覚しましょう。
 そのまま全力疾走したら、どこかにぶつかってケガをしてしまいますよね。
 目隠しを外し、周りを見渡して、危険がないか、どこに進めばいいのかを把握することが必要です。

 そこでおこなうこととして、「妄想する」という方法を紹介します。

「妄想」を1行だけ書いてみる

 誰もが子どもの頃には「妄想」をします。
「あんなこといいな~、できたらいいな~」と、将来の夢や自分の未来について妄想します。

 翼が生えて空が飛べたらいいな、ユーチューバーになりたいな……。

 子どもの頃は夢見がちだったあなたも、大人になるにつれて妄想の幅が狭まっていると思います。
 人間はストレス過多な生活に慣れて日常生活に縛られるほど、現実を過剰に意識するようになり、妄想する時間を少なくしていきます。

 一方で、子どもはよくごっこ遊びやおままごとをします。
 このとき、彼らの頭のなかでは「妄想」によって脳に爆発的な変化が起こっています。

 子どもは将来の自分やヒーロー、ヒロインの活躍を「妄想」によって補うことで、目には見えないイマジネーションを膨らませています。

 大人が子どもと同じようにオモチャで遊べないのは、「妄想」する力が子どもに比べて劣っているからです。

 妄想する時間は、じつは大人にとっても大切な時間であることがわかっています。
 いわゆる脳が何にも集中していない「空想モード」に入っているときに、人は脳の中で考え方のクセを修正したり、「自分ってこうだよな~」とメタ的な視点を整える時間を補っているのです。

 何も考えていない、妄想したり空想したりする時間のことを、近年では「デフォルト・モード・ネットワーク」と言ったりします。

 ここでステップ1では、「なりたい自分」や「やりたいこと」をとにかく妄想します。
「こうなりたい」と思う自分の像を明確にするために1行を書きます。
 具体的な目標とか、大層な大義なんかは必要ないので、ゆるくこうなりたいというものをひとつ言葉にしてみましょう。

「もっと社交的になりたい」
「仕事を変えたい」
「恋人がほしい」
……

 どんな内容でもいいので、ふわふわした「こうなりたい」みたいなものを1つ見つけられれば、この項目は成功したと言えます。
 これだけでハラ落ちのステップの一歩目は完成です。お疲れさまです。
「こんなことでいいの?」と思われたかもしれませんが、この一歩目が何よりも大切なのです。

他人に言われてハッとなる感覚

 人間は、目的が定まらないまま歩き続けると思考が迷子になってしまいます。
 そんな中で「こうなりたい」という道筋を立てたということは、ゴールが見つかったということでもあります。
「そこに近づけばいい」というゴールラインを明確に意識できたということが大きな収穫なのです。

 ここで余力がある人は、妄想をさらに進めて、「どうすればなりたい自分になれるか」というところまで考えてみます。
 そのときに、「自分はなんて想像力に乏しいんだ」と自分を卑下したあなたは、すぐに自分を否定するクセがついています。

 そんなふうに他人に言われてハッとなる感覚こそが、考え方のクセの正体です。
 人は図星をつかれるとちょっとムッとしてしまう生き物なので、「そういう考え方もあるかもね」程度にとらえておきましょう。

「なりたい自分」がハッキリしているのに、頭に勝手に浮かんでくる否定的な言葉があれば、それを意識的に見つけておきましょう。

「できるわけがない」
「年齢的に無理だ」
「家族がいるからダメだ」
「病気だから仕方ない」
……

 そんなふうに次から次へと浮かんでくる否定的な考え方こそ、次のステップにつながるヒントです。

(本稿は、頭んなか「メンヘラなとき」があります。より一部を抜粋・編集したものです)

精神科医いっちー
本名:一林大基(いちばやし・たいき)
世界初のバーチャル精神科医として活動する精神科医。
1987年生まれ。昭和大学附属烏山病院精神科救急病棟にて勤務、論文を多数執筆する。SNSで情報発信をおこないながら「質問箱」にて1万件を超える質問に答え、総フォロワー数は6万人を超える。「少し病んでいるけれど誰にも相談できない」という悩みをメインに、特にSNSをよく利用する多感な時期の10~20代の若者への情報発信と支援をおこなうことで、多くの反響を得ている。「AERA」への取材に協力やNHKの番組出演などもある。