「先延ばしがクセになっている人に処方箋があります」
そう語るのは、これまでネット上で若者を中心に1万人以上の悩みを解決してきた精神科医・いっちー氏だ。「モヤモヤがなくなった」「イライラの対処法がわかった」など、感情のコントロール方法をまとめた『頭んなか「メンヘラなとき」があります。』では、どうすればめんどくさい自分を変えられるかを詳しく説明している。この記事では、本書より一部を抜粋・編集し、考え方次第でラクになれる方法を解説する。(構成/種岡 健)
人間は努力が大嫌いな動物
「学校が終わったら、家に帰って勉強しよう!」
「仕事が終わったら、健康のために運動しよう!」
やろうやろうとは思っているものの、なかなか行動に移せない……。
そんなことはないでしょうか?
人間は努力や継続が大嫌いな動物なので、意味のないと思うこと、価値を感じないことは続けることができません。
ですが、やらなければならないことを後回しにしてしまって「自分には才能がない」「フットワークが重い」と悩み、結局いつも「自分はダメなヤツだから仕方がない」と思い込むことが多いかもしれません。
しかし、これはあなた個人の能力のせいではなく、人間の脳の仕組みである「先延ばし」によるものかもしれません。
先延ばしによって「守ろうとするもの」
そもそも「先延ばし(procrastinate)」という言葉は、「やらなきゃいけないと思っていることを正当な理由もなく、それが悪い結果をもたらすことを知りつつも、避けてしまうこと」を意味します。
今やったほうが得をして、後に回した方が損をするとわかっているのに、どうしてそんなことをしてしまうのでしょうか?
そんな先延ばしは、私たちのメンタルや身体を危険から守るためのある種の「防衛本能」のような役割を持っていると考えられています。
私たちが先延ばしにしてしまうものの多くが「達成することでストレスや負担を感じるような、めんどくさいと感じてしまうタスク」です。
人間の脳は前述したように、意味のないと思うこと、価値を感じないことは続けることができません。
そんなめんどくさいと感じるようなタスクは脳に大きなストレスやダメージを生じてしまうので、これを避けるために、タスクへの取り組み自体を先延ばしにして、自分の心を一時的にも守ろうとしているのです。
先延ばしの克服
ですが、そんな先延ばし癖も続けることによって自分自身を追い込んでしまいます。
めんどうなタスクを手が付けられないで、先延ばしにしていると「やらなきゃいけないのにできていない自分」に対してストレスを感じるようになるからです。
そして、めんどくさいタスクを放置することで、新しいタスクがどんどん積み重なっていってより一層、手をつけるのが困難になってしまうのです。
先延ばしを克服するには、ある種の経験が必要になります。
「先延ばしをしないためのルーティンを作る」
「仲間や家族と取り組むことで机に向かいやすくする」
など、各々のスタイルにあった形で克服する方法を身につけていきます。
先延ばしの克服は、そんな経験や感情のコントロールの練習によって身につけられるものなので、最初から誰もができるわけではないですし、先延ばしグセがあるからといって、必ずしも本人に問題があるとは限りません。
ですが、現代の日本では多くの人が先延ばしを「怠けている」と感じてしまいます。
その結果、「先延ばしグセ」がついてしまった人は、「なにもできない自分」に悩み、自信や自己肯定感を無くしてしまうのです。
では、そんな先延ばしグセはどうすれば克服できるんでしょう?
ここで重要なのは、先延ばしは短期的なストレスから自分の心を守るための「防衛本能」であると考えることです。
あなたが先延ばしをするようになっていることも、あなたが抱えきれないストレスや負担を感じているからかもしれません。
抱えている仕事の量や通勤時間の長さ、1日の中で自由にできる時間などを管理し、1日の中での余白を作っていくことこそ、先延ばしを減らすための重要な要素になります。
先延ばしグセを克服するため、短期的なストレスを減らすために必要な無理なスケジューリングや厳しい管理体制ではなく、もっとゆるい「なにもしなくてもよい」という余白の時間を増やしていくことなのです。
タスクに取り組む方法
最初に述べたように、私たち人間は努力や継続が大嫌いな生き物です。
そのため、厳しい管理や納得いっていないタスクに対してはマイナスの感情が増大してしまい、ますます手が付けられなくなってしまいます。
そんなマイナスの感情をてなづけ、先延ばししてしまう自分をブラッシュアップするためにはむしろ「自分を心からゆるめる」ことで、タスクに対するネガティブな感情を緩和するほうがよいのです。
たとえば、タスクのなかで不要な部分を簡略化して「どうすればもっとラクに作業ができるか?」と工夫する方法を考えてみましょう。
・作業に入る前に「お気に入りの飲み物を飲みながら行う」など、小さなご褒美を作る
・その作業が「なぜ自分にストレスを与えるのか」をメタ的に書き出してみたりする
それらによって、「なぜ、タスクに対してマイナスに感じてしまうのか?」をメタ的に理解でき、タスクをこなすためのハードルがグッと低くなるでしょう。
(本稿は、『頭んなか「メンヘラなとき」があります。』より一部を抜粋・編集したものです)
精神科医いっちー
本名:一林大基(いちばやし・たいき)
世界初のバーチャル精神科医として活動する精神科医。
1987年生まれ。昭和大学附属烏山病院精神科救急病棟にて勤務、論文を多数執筆する。SNSで情報発信をおこないながら「質問箱」にて1万件を超える質問に答え、総フォロワー数は6万人を超える。「少し病んでいるけれど誰にも相談できない」という悩みをメインに、特にSNSをよく利用する多感な時期の10~20代の若者への情報発信と支援をおこなうことで、多くの反響を得ている。「AERA」への取材に協力やNHKの番組出演などもある。